「「ロジ・コミックス ラッセルとめぐる論理哲学入門」(筑摩書房)」
読書
このマンガは、バートランド・ラッセルが1939年、ナチスがポーランド侵攻を始めた3日後に、アメリカの大学に招かれて「社会における論理学の役割」を講演する場が舞台になっている。
すでに平和や社会運動に活発に参画していたラッセルを迎えたのは、講演をやめてアメリカが欧州の戦争に参戦することを阻止する活動に協力しろというアメリカの反戦運動家たちであった。
ラッセルは、彼らを制してともかくも自分のこれまでの研究と人生を語る中で、彼らと討論することを約束する。
結論からいえば、ラッセルは「本能」「感情」「習慣」を目配りした経験論の風土にあったイギリス社会の中で、哲学と論理学と数学の基礎となる合理を究極まで追及することを学問上の課題とした。
論理学においては、ラッセルのパラドクスで有名な集合論の矛盾を指摘し、数学においては果たして数学的な知識は先験的な心理足り得るかを追及して数学の論理的基礎を明らかにした。哲学においては、いわゆる論理実証主義・科学哲学に道を開いた。
だが、天才的な弟子であったヴィトゲンシュタインの挫折に見られるように、混乱した社会を救えるのは厳密なる論理と科学的な探求であるという信念は、自身の私生活や教育活動での失敗の経験を通じて揺らぎかける。
確かに論理と科学で世界は救えないのかもしれないが、そのことは論理と科学の探求を極めたうえでしか分からなかったし、正しい論理的思考は人間が現実と向き合うとき、もっとも強力な武器になり得る。
結局、自国と関係のないヨーロッパに戦争になぜ参戦しなければならないのか、反戦の主張は本能的にも感情的にも習慣としても正しいし、ましてや論理的に正しい、だからあなたも我々の運動に賛同すべきであると迫る人々をまえにして、ラッセルはあえて答えを出さない。
自分の体験は、今のアメリカのジレンマに少しでも資すればよいと思って語った。自分はそれしかできないといって、聴衆に問題を投げ返した。
まあこう書いてしまえば、ごく単純でつまらないお話しに聞こえてしまうが、改めてナチスの
ポーランド侵攻が米英の無関心と融和政策によって引き起こされたという一方の世論が強まるなかでの反戦の主張をどう打ち立てるかに、臆病なアタクシなどは立ちすくむ思いがする。

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