かつてニュージーランドはイギリスに乳製品をはじめとする農畜産物を輸出することで富を得ていた。ところが60年代末から70年代、イギリス経済の衰退によって、英帝国を維持してきた経済的なつながりも細る。ついにイギリスはEUの前身のEC加盟を73年に決めて、ニュージーランドは安定した輸出先を失う。それがその後の財政破綻寸前にまで追い詰められた末、80年代の血も涙もない規制緩和と行政改革、労使関係の激変の時代へとつながる。
さて、そのイギリスが今度はEU脱退を国民投票で決めた。経済通の人ほど、現状維持を予測していたと見えて、大方の報道はヨーロッパへの難民流入やEU拡大に伴う旧東欧からの移民増加に対する労働者階級の嫌悪感を甘く見たと分析し、キャメロン首相がうっかり国民投票で大衆迎合しようとしたことが、世界経済に大事を引き寄せたと批判がましく書いている。
大衆迎合といえば事実そうなのだろう。EUのような国家政府の上に国際機関を設立して、一部の国家主権を委任するとなれば、とうぜんその結果として、政策上のプラスとマイナスが各国国民生活に降りかかる。今回の国民投票の結果から見えるのは、やたらと外国人労働力の流入による混乱が強調され、すでに実施もされてきた政策のプラスの面については語られて来なかった。EUの関税があり、環境基準があればこそ、日本の自動車企業は日本からの輸出ではなく、イギリスやその他ヨーロッパで現地生産する道を選んできた。それがイギリスの失業率を下げていたかもしれない。たとえばそのような点は、なかなか理解はされない。
そもそも国民投票は、投票によって答えを出すことそのものよりも、事前の話し合いや討議にどれだけ時間をかけて、より多くの国民に多面的な事実について理解してもらう工夫が必要になる。つまり、制度を変えるにせよ、変えないにせよ、その制度の持つプラスとマイナスを認識している「国民」を増やさないといけない。
キャメロン氏の心の中に、とにかく早めに国民投票を僅差で勝ち抜いて、白紙委任状を手に入れたかったという気持ちがなかったとはいえない。そのことが、説明責任のある種のずさんさを助長して、大衆迎合的世論の勝利を導いてしまったことがあるような気がする。
それにしても、離脱派のメンタリティーのなかにEUなんぞなくても、かつては自分たちには大英帝国の結びつきがあり、いまだってブリティッシュ・コモンウェールズがあるからいいじゃないかという話があると聞いてまたびっくり。イギリスさま、あのときあなたは私を捨てて、EUを選んだのではなかったの?

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