アメリカの大統領選挙は投票日直前の10月に、候補者の過去のスキャンダルが浮上したり、ちょっとした、しかし命取りになる失言などが飛び出したりする。
予備選挙から一貫して今年のアメリカ大統領選挙を揺るがしてきたトランプ氏が、1本の猥褻ビデオで支持率を失墜させている。
猥褻ビデオと言っても、ドナルド・トランプが、テレビ番組のロケバスの中で女を口説き損ねた武勇伝や自分の女癖についてスタッフと軽口を叩いている音声が収録されているだけだ。
これまで数々の暴言や差別発言を繰り返し、女性に対しても典型的な性差別的態度を隠さずに来たトランプ氏だったが、その発言は計算があってのことだろうと思っている人も多かった。
ところが、10年前に録画されたというプライベートなビデオによって、トランプの暴言はどうやら彼の本音だったらしいことが、白日の下に晒された。
投票日まで一か月を切ったこの段階での支持率10%の差は、普通は決定的に見える。
もはや大統領選挙自体は決したかに見える。
本来であればそれは、アメリカの歴史上初の女性大統領の誕生を意味し、もう少し盛り上がりを見せてもいいはずである。
だが、たとえ選挙には大勝してもこれほど不人気な大統領は史上初めてかもしれない。
敵失で漁夫の利を得た形になるクリントン女史だが、メール問題や健康問題など、通常の大統領選挙では十二分に致命的になり得る問題が、相手がトランプ氏だということで軽く見られている。
本選挙前の3回のディベートのうち、2回目はとくに、表層的なスキャンダルネタでお互いを罵り合うネガティブ・キャンペーンを全世界に晒した結果になった。
クリントン氏の政策が十分有権者に浸透したとは言えないし、今後のアメリカや世界の情勢がどう動くのか、どういう政策が考えられるのか、それがクリントンの大統領就任後のリーダーシップにどう影響するかについても極めて不安は多くなった。
それでもトランプ現象が終わりそうにない。
今回の猥褻ビデオで共和党の重鎮から批判されたトランプは、むしろ態度を硬化させ、今までは党に配慮しておとなしくしてきたが、これからは自分のやり方で選挙戦を戦うと宣言している。
ビデオ問題が発覚して以降、トランプは「自分が大統領になったらクリントンを刑務所に送ってやる」とか、メディアが報じている自分のスキャンダルは全てデマで陰謀だなどと、持ち前の陰謀論を全開させている。そして彼の固い支持層が1400万人はいる。
これは民主主義体制の崩壊現象の一幕のようにも見える。
だが、あえて言えば世界の民主主義体制が抱えている問題を、赤裸々に世界に示したという点では、民主主義が機能している証拠なのかもしれない。
ただ、問題は明らかになったが、その先どうなるのかは分からない。いや、「どうなるのか」じゃなくてお前さんが「どうするのか」が問われている。

0