全国各地で受粉用のミツバチが不足し、農作物への影響が心配されている。
ミツバチは、養蜂家が箱で飼育してハチ蜜を集めるので有名だが、一方で農家が農産物の受粉に使用している。農家はミツバチを養蜂家から買ったり、借りたりして受粉作業に使う。しかし、この授粉用ミツバチが各地で不足している。
農林水産省によると、山形や福島、千葉、群馬などの関東周辺や、中国地方や九州などを中心に全国21の都県でミツバチが不足していることが分かった。これら地域では、イチゴやメロン、ナスなどのハウス栽培や、それに野外での梨やリンゴ、サクランボなどの受粉をミツバチに頼っている。
ミツバチが使えなくなれば受粉作業は、人の手で行わなければならない。農家は高齢化しているし、大規模にやっているところほど、その影響が大きい。
ミツバチ不足は去年の秋くらいから深刻化しており、収穫が終わりに近づいているイチゴでは、東京や香川、徳島で収穫量が見込みを下回り、静岡や佐賀などでも受粉がうまくいかずイチゴの形が悪くなっている。
イチゴ農家では、毎年10月頃に養蜂家などからミツバチの群れを箱ごと購入する。例年だと1万円から1万5000円だった群れの価格は5割近く上がっていて、十分にミツバチを確保できなかった農家も少なくなかった。
これまで夏が暑くてハチが弱ったりすることはあったが、今回のように問題が深刻化したことはなかった。なぜ、ミツバチが不足しているのかの原因はいろんな要因が絡んでいるが、主に三つ考えられる。
一つはハチの大量死。去年も北海道で大量に蜂が死に、死んだミツバチから、稲につくカメムシ駆除用の農薬が見つかった。この農薬は人間にはあまり影響はないが、虫に対する毒性は強力である。蜂は農薬に汚染された花の蜜や水を巣に持ち帰って、これが大量死を引き起こしたのではないかと考えられる。
二つ目はダニの影響。ハチにはヘギイタダニという主に幼虫に寄生するダニがおり、ハチの体液を吸ってしまう。最近は薬も効かなくなりハチの繁殖力を弱めているらしい。
そして三つ目は、輸入のストップである。これまで日本は、花粉交配用ミツバチの17%ほどをオーストラリアやハワイから、輸入してきた。ハチ輸入は、女王蜂を輸入して国内で増殖した後、交配に使っている。
ところが、オーストラリアなど輸出国でミツバチの伝染病が発生し、すべての輸入がストップしている。
農林水産省では、国内でのミツバチの数を増やすことを考えているが、国内の養蜂家の数は、1980年ごろには1万戸ぐらいいたが、年々減り続けて現在は、5000戸となっている。海外産の安い蜂蜜との競争という理由もあるが、国内に蜜源となる花が少なくなっている。
重要な蜜源だった菜の花は国内で油を作らなくなって観光用にしか残っていないし、レンゲもかつては畑の肥料として作られていたが、化学肥料が出来て見ることも無くなってきた。日本の農業の構造が変わり、養蜂家の数が少なくなっては、ハチの数も増やせない。
また、アメリカでは2005年あたりから、働き蜂が突然巣からいなくなってしまう、群れ崩壊症候群(CCD)と呼ばれる現象が全米に広がり、深刻な農業問題となっている。すでに全米の4分の一のハチが消滅したと言われていて、日本でも養蜂家の中には原因不明で蜂の群がいなくなったという人がいる。原因はまだ特定されていない。
農林水産省は当面は、全国の不足状況を見ながら、ミツバチの需給調整を行いながら、病気が発生していないアルゼンチンから女王蜂の輸入を進めるとのこと。
しかし、南米では日本でも使われる西洋ミツバチのほかに、アフリカ原産の日本にいないミツバチの混入が問題となっており、検疫上、簡単に輸入には踏み切れない事情がある。
世界的にミツバチの世界が不安定になっていることを考えると海外への過度な依存体質は危険である。国内でも耕作放棄された農地に花を植えるなど、ミツバチ農家を支援する体制を組むことが必要だという。

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