この10年間の企業社会の解体、利益誘導政治の縮小、貧弱な社会保障によって、高度成長を推し進めた「自民党」システムによる政治が終わった。しかし、この間に進んだのが社会統合の破綻に対して民主党政権は何か解決策を出せるだろうか。
最近、一橋大学で最終講義を行った渡辺治教授によれば、民主党は3つの構成部分を持っているという。
1つ目は、民主党の「頭」の部分である鳩山首相を中心とした政府の中心メンバーで、反開発政治型新自由主義派という民主党のもともとの性格を継続している勢力である。
渡辺教授はこれを「悩みながらの構造改革派」と表現し、「頭」の部分はアメリカや財界からの圧力と国民の期待の板ばさみになって悩みながら、結局は構造改革へ向かうという。
2つ目は、民主党の「胴体」の部分である小沢幹事長と大量当選した新人議員の勢力で、修正開発型政治に向かおうとしている。
07年の参議院選挙、そして昨夏の衆院選において、小沢幹事長は商工会議所、医師会、農協などの地方財界の中心を回り、連合の地方組織の支持も取り付け、本来は相容れない経済界と労働運動を民主党(あるいは小沢さん個人のキャラクター)の旗の下に合体させた。
政権交代後は官僚と自民党議員との接触を禁じ、地方の陳情も阻止し、小沢幹事長が独自に地方への利益誘導を分配しようとしていると見られている。
3つ目は、民主党の「手足」の部分である現場の中堅議員層で、様々な運動を背景にして政策をつくってきた長妻厚生労働大臣や山井厚生労働政務官などの人たちであり、福祉政策の実現に動こうとしている。連立政権の社民党、国民新党もこの層を応援している。
しかし、「頭」の部分はいくつかの福祉政策を実現する代わりにその他の福祉を切り捨てようとしている。
このように、民主党は「頭」は右に向かい、「胴体」は後ろに向かい、「手足」は左に向かっているような状態であり、これらの3つの構成部分のどこが強くなるかはまだわからない。
つまり、外部の力で影響を与えることが可能であり、運動によって個々の部分ではいい方向へ向かわせることが可能な状態であると言う。
マスコミは表層的に、鳩山首相のリーダーシップがないから、小沢幹事長による二重支配が行われていると評しているが、問題はそんなところにはない。もともと鳩山さんの本質が「悩みながらの構造改革派」であるところにあるから、フラフラしているように見えるわけである。
菅直人さんは、その出自からして第三グループと思われているが、どうも本質的には1グループに近いようだ。財務大臣に横滑りしたことで、彼はギリギリにムダを排除するまで消費税論議はしないという考えをかなりはっきり打ち出した。
この考え方は、よく考えると彼が嫌いなはずの小泉純一郎さんの考え方によく似ている。もっとも、小泉さんは各省庁一律に予算削減を命じたけれど、菅さんは「政治主導」で予算の「組み替え」を行うという考えである。
問題は、予算の「組み替え」がそんなに簡単にできるとは思えないことである。公共事業を止めて福祉にまわすとか、農業予算のなかの基盤整備は止めて、農家の所得保障にするとか、大まかに言うのは簡単だが、実現しようとすれば削られる方は官民挙げて、陰に陽に抵抗勢力となる。
実現しようとすれば、それは必然的に小沢幹事長に頼らねばならなくなる。つまり、民主党に票を出す組織とそうでない組織を篩にかけるぞ、ということで切り捨てて、あきらめさせるしかない。
民主党の直面する問題を解決するためのひとつの答えは、要するに消費税増税で予算を確保することだが、増税を納得してもらうには、例えば一定以下の所得の人は、申告すれば一年間の消費税分の額が還付されるような仕組みを作るしかないだろう。
ただし、これを実施すれば共産党や公明党が組織を挙げて「還付金の手続きをお手伝いします」ということで、低所得層を組織するために使われるだろうと想像されるから、民主党には受け入れがたい手ではあるが・・・。
第一、このデフレの時に消費税増税なんてできるわけもないけどね。

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