消費税率を10%に引き上げるというようなことを示唆したばかりに、民主党は参院選で議席を減らした、ということになっています。
もっとも、菅さんはすぐに10%に上げるなんて言ってないし、余計なこと言わないで次の衆院選まで税制について検討しますとだけ言っていればよかったわけだけど、それはともかく、どうしてそんな早走った、アホなことを口に出してしまったのでしょうか。
民主党が政権を受け継いだ時、景気の低迷で主要な直接税である所得税、法人税がピークに比べて半分以下に減ってしまっていたことが大きな理由でしょう。
要するに、カネがないの切迫感が先に立ったのかも。
事業仕訳は、民主党が始めた中では支持が高いもののひとつだったのですが、ワタクシは正直言って、「なんでこんな景気が悪い時によりによってそんなことするの?」って思いましたけど・・・。
いえ、別にムダ撲滅は悪くありません。でもあのころは、どの国の政府も、少々のムダに目をつぶって景気対策に政府支出を増やしていた時期だったですから。
え?この時期に事業仕訳ですか?冬になって寒波吹きすさぶ時期になって、いきなり冷たい滝にうたれて修行を始めるような話ですよね。
冷水浴は健康にいいのかもしれませんが、真夏の暑い時期から始めないと肺炎とは言いませんが、風邪ひくのがオチでしょ?
そもそもどうして日本は、不景気になるとそれがマトモに税収不足として直撃するような脆弱な財政構造になってしまったのでしょう?
さかのぼれば、かつて消費税が導入され、3%から5%に引き上げられる過程で実施された、さまざまな税制改革の影響もあるようです。
例えば、所得税では中低所得者も04年までは軽減されたが、高所得者も最高税率が引き下げられるなど累進構造は見直され、負担が軽減されました。
法人税も減税されました。法人の7割が赤字で、法人税を払う企業は少ないという日本固有の事情もあります。
また、相続税はバブルで不動産の価格が高くなったということで、負担軽減のために基礎控除額が引き上げられました。
94年からは5千万円が定額で控除され、税率も緩和されました。その結果、相続税を払う人は、遺産相続をした人の4%余りまで減りました。ピーク時は相続した純資産の22%を納税したものですが、最近は11%台に落ちています。
でも、過ぎたるは及ばざるが如し。
確かにバブル期に東京都心に猫の額ほどの狭い土地で自宅兼タバコ屋さんをしていた人が、地上げもあって相続税が払えなくて、泣く泣く店をたたんで郊外に引っ越しした、なんて話もありました。そのせいで相続税引き下げになったわけです。
しかしそれは、もともと自民党あたりの2世議員でフツーの人より親の遺産がある人が過剰反応したせいもあるようです。
消費税は低所得者に悪影響を与えるということはよく言われます。その上に、消費税導入後の税制改革も高所得者や多額の遺産相続をした人に優しかったわけです。
菅総理は、税制改革の論議をするなら、消費税をどうデザインするかにとどめてはならないでしょう。所得の再分配機能を回復するため、所得税や相続税など直接税も議論すべきです。
この20年、高所得者の最高税率が引き下げられるなど累進構造が直され、負担が軽減されました。
企業の国際競争力をつけるために法人税の減税が主張されていますが、そもそも日本では法人の7割は赤字で、実際に法人税を払う企業は少ないという事実があります。
すなわち、政権交代が実現するまでに、自民党政権下で行われた税制改革は、高所得者や多額の遺産相続をした人に優しいものだったわけです。この「優しさ」が、まさに財政赤字の元凶になったわけです。
民主党が政府を握って、勇んで金庫を開けてみたら、中はスカスカだったということです。
民主党が政権についた時にまず打ち出すべきは、「財政に所得の再分配機能を回復するため、所得税や相続税、法人税など直接税を消費税とともにどう変えるか議論を始めるべき」とはっきり宣言することだったということでしょう。
この点では、菅総理が所得税の最高税率を引き上げる可能性に言及したのは、大きな前進ではありますが、さらに相続税も見直すとなれば、二世議員の多い自民党なんかは大いに抵抗することでしょう。
総じて言えば、自民党政権は選挙対策のために、直接税に分類される様々な税を引き下げてきたために、大不況が襲ってきたとき、財政にその影響が直撃する形になっています。そのうえ、雇用保険は事実上、非正規雇用者には適用外にされてきました。
中小企業に社員をリストラしないように雇用調整助成金が出されるような制度はありますが、そのせいでかえって産業の構造転換が阻害されている面も否定はできません。
それならば、リストラされた人に手厚く職業訓練をして、その間の生活費を手当てするほうが望ましい訳ですが、自民党政権はその点まったく消極的でした。
西欧諸国では、不況になって労働者がリストラされても、失業給付や職業訓練が財政出動して、一種の安定化装置として働きますが、日本ではそのような財政の安定化装置が極めて希薄です。
もし消費税だけを10%にして社会保障費にまわしたとしても、ますます税と財政の構造が歪むだけでしょう。
必要なことは、直接税を含む税制の見直しなのですが、果たして国会はその機能を果たせるでしょうか?

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