三井環「『権力』に操られる検察」(双葉新書)によれば、著者が大阪高検公安部長にいたころ、加納駿亮・検事正に対してある収賄事件における強引な捜査を咎めたことがきっかけで、人事や給与で不当な扱いを受けた。
それに憤慨した著者は、加納氏に焦点を当てて、検察内部の裏金作りの実態を最初は最高検に告発したが、それが「嫌疑なし」とされてしまう。そして次は、メディアに向けて内部告発に及ぶ。
加納氏はそのためもあって、既定の話だった彼の高松高検検事長への昇進がストップする。それだけでなく、検察内部のあらゆる人事案件がストップした。
検察組織の崩壊を怖れた当時の原田明夫検事総長などは、後藤田正晴・元法務大臣に懇願して小泉純一郎首相への働き掛けをしてもらい、保留状態になっていた検事長人事の凍結を解除した。
「これは法務検察にとって、間違いなく自殺行為だった。反対に自民党政権は、検察に巨大な貸しを作った。権力の不正を追及する捜査機関である検察にとって、これは絶対に作ってはならない貸し借りだった。」(P10~11)
この絶対に作ってはいけない政権との貸し借りを、後藤田さんは「けもの道」と呼んだ。著者は、検察がこれによって「けもの道」に落ちたのだという。
検察がこの「けもの道」に落ちたために、日本歯科医師連盟のヤミ献金事件で、橋本龍太郎元首相や青木幹雄、野中広務両氏などは嫌疑をかけられつつも、起訴されることがなかったのだという。
野中氏は、事件が表面化する前に三井さんに接触し、検察のヤミ献金の実態について詳細に情報を仕入れていた。
検察は、自分たちの裏金作りを不問に付すことのひきかえに、小泉政権に借りを作った。そのために小泉政権に関わる不正を暴くことは不可能になった。
では小泉政権に対立する自民党橋本派のヤミ献金事件についてはどうなったかといえば、逆に検察のヤミ献金という事実を突き付けられて、事件の摘発は腰砕けに終わった。献金を受け取った現場にいなかった村岡兼造・元官房長官のみが無実の罪を着せられる結果になった。
検察は、政界に関わる特捜捜査が不可能になった。そこで組織の存続を保つために目を受けたのが、当時世間を騒がせていたライブドアの堀江貴文氏だった。特捜は「経済検察」に移行するなどということが言われるようになった。
しかし、ライブドア事件を振り返ってみれば、経済事件は基本的にそもそも私人間の争いであって、複雑に利害が絡まる市場経済についての紛争を、政界の汚職などと同じように特捜検察が扱うことに無理があったと言わざるを得ない。
このような流れの中で民主党の小沢一郎さんをめぐる事件と検察の関わりを見れば、やはり政権交代が不可避とされる政治の流れの中で、検察が組織防衛のためになりふり構わずになっている実態が浮かび上がって来る。
著者は、最近の村木厚子さんが無罪になった「郵便不正事件」にいたる5つの特捜事件のウラの「闇」をかなり説得力を持って解明している。
この本を読んだ後で、尖閣諸島での漁船と海上保安庁との衝突事件で逮捕・拘留されていた中国人船長が急きょ釈放された。24日に記者会見した那覇地検の鈴木次席検事は、船長保釈の決定について、「今後の日中関係を考慮」した結果であると発言した。
この発言も、ある意味で外交的に行き詰まった現在の政権に「貸し」を作ろうという検察の意図が見える気がする。
「だから、捜査の全面可視化なんて止めてよね・・・」ということでしょう。

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