「リスクに背を向ける日本人」(山岸俊男、メアリー・C・ブリントン著 講談社現代新書)読んでの感想が続く。
民主党政権に対する失望感は日に日に高まっています。その根源にあるものはなんでしょうか。ワタクシは個人的には沖縄問題など、いろいろあるのですが、この際それは置いておきます。
根本問題は、おそらく雇用問題でしょう。
1990年代以降、それまで日本のオトナの社会を支えてきた安定化をもたらす社会関係や、人間関係は急速に崩れたと多くの人々は感じています。
大企業に就職すれば、定年までほぼ保障されたとされる終身雇用制度も崩れたといわれるが、1995年に日経連が出した「新時代の『日本的経営』−挑戦すべき方向とその具体策」では、終身雇用制を終わらせるとは言っていません。
終身雇用する中核的社員の数を絞り込み、その他は柔軟な労働市場のなかで必要な労働力を確保するということなのです。
問題は、正規の従業員が少なくなって、派遣に代表される非正規従業員が増えたと多くの人々が実感しているにもかかわらず、失業した人が再雇用されるための労働市場も、職業訓練のための支援も、失業保険も充分に整備されるまえに、終身雇用の終焉や非正規雇用の本格化や、派遣業の規制緩和が進行したことにあります。
多くの労働者が、今のこの仕事を失っても、別の形で仕事を得ることは可能だという実感がもてないで、今のこの仕事が自分にとって良いか悪いかも問うことなく、ひたすら首になることを恐れ、今の仕事にしがみつくようになりました。
おそらくこれが、日本を襲う閉塞感のかなりの部分なのではないでしょうか。
充分な雇用保険給付もなく、職業再訓練の場も提供されず、「自由でオープンな労働市場」なんてどこにも存在しないなかでリストラされれば、自分は悲惨なことになる。製造業派遣の人々の雇い止めが顕著に現れた形になった「派遣村」で年越しする人々の姿をマスコミが報道するなか、現状に対する国民の不安と不満が増大するなかで、遂に自民党から民主党への政権交代まで起きたわけです。
民主党を中心とした政権に対する希望が、しだいに失望に変わりつつあるのは、民主党のいろいろな公約が実現されていないからだと考える人が多い。
だが、少しばかりの公約違反はおそらく問題ではない。などというとまるで小泉元首相みたいだが、実は政権に対する失望の最大の原因は、別に公約違反そのものではないでしょう。
今の政権が、たとえ失業しても必要最低限の保障は受けられ、新しい職業訓練の場も用意され、新しい仕事に就くチャンスがある社会に変わりつつあるという見通しを示していないからでしょう。
多くの日本人には、セカンドチャンスがあることこそが雇用の安定であるという考え方がありません。雇用の安定とは、終身雇用で、クビを切られないことだと考えています。同じ会社に雇用され続けることが良いことであるという思考に囚われている。
こんな仕事にしがみつくより、やり直した方が良いという気持ちを多くの人が持てるような方向に政治が後押しをしていないことが、おそらく最大の政権に対する失望につながっているのでしょう。
そういう気持ちにさせる政治がおこなわれない限り、民主党の政権は1期4年で終わることになるような気がします。

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