フリマ中止を巡る未来塾と安中市・岡田市長とのバトル…最終ラウンドその2-4(未来塾の最終準備書面)  安中フリマ中止騒動

■引き続き、3月18付けで未来塾が提出した原告最終準備書面です。


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4 被告岡田自身が原告らの社会的評価の低下を認めていること
 被告岡田自身,冒頭から怒鳴ったり,市長を罵ったりする言動をとることが,地域づくりに関して多数受賞する団体・役員としてとても信じられない旨,そして,一般市民も事実関係を聞けば同様に受け止めるであろうことを,自らの陳述書及び法廷における証言で認めているのである(乙17:2頁,被告岡田:20頁)。
 原告ら訴訟代理人山下  これはあなたの陳述書ですよね。
 岡田  はい。
 山下  2ページ目,この7項のところの下3行を読みますが,ボランティア活動を行う団体として何度も表彰を受け,高い評価を受けている団体役員から出た言動とはとても信じられませんでしたが,と書いてありますね。
 岡田  はい。
 山下  この役員から出た言動というのは,冒頭からどなる言動のことですよね。
 岡田  それから,終了して,その市長室と秘書行政課のドアを開けて退席するときのことです。
 山下  で,そのことについてとても信じられないと,このように書かれてますよね。
 岡田  はい。
 山下  そうすると,そういった冒頭からどなったということとか,終わってののしられたという事実関係を市民の方々が聞いたら,あなたと同じように信じられない気持ちになるだろうと思いますよね。
 岡田  はい。

5 実際に原告らの社会的評価が低下していること
(1) この「談話」の記事により,実際に原告らの社会的評価は低下している。
(2) 原告松本は,「談話」を初めて見たときに
 「私は自分たちで一生懸命やってきたもんですから,そういった私たちのその信用とか信頼というのが,これで打ち崩されたというようなすごい衝撃を受けました」
と述べ(原告松本:8頁),さらに,実際に社会的評価が低下したことについて,次のように述べている(甲50:23頁)。
 「私は,この記事が掲載されて以降,周囲の人から『いつもニコニコしているけれど,あんな人だとは思わなかった』『松本さん,不動産業もやっているんだって?』と言われたりしました。『2000円とってんだから金儲けと一緒だ』『露天商と同じだ,公共の施設を使うな』『ボランティアだったらゴミでも拾ってろ』等,『談話』の内容を鵜呑みにした誤解に基づく抗議や,『悪い未来塾はぶっつぶしてやる』と脅しのような電話も受けました。そして,いつも挨拶等声をかけてくれる人が私に声を掛けなくなるなど,私に対する態度の変化を感じました。2年が経とうとしている今でさえ,『やっぱり金儲けしているから会場を貸してもらえないんだよね』などとも言われています。『役所のお知らせ版だから間違いないよね』と,市の広報を信頼し,事実と違う内容を信じてしまっている人もいます。」
(3) 原告未来塾メンバーや,フリーマーケットにボランティアスタッフも,「談話」によってその社会的評価が低下させられている。実際に,学校のPTA会長となるにあたって,原告未来塾のメンバーであることを理由に断られる問題が生じたり(原告松本:20頁),それまで,学校と連携し,ボランティアスタッフを務めた児童・生徒を学校が高く評価してきたが,「談話」の一件後,それも行われなくなった(原告松本:20頁)。

6 行政対象暴力
(1) 行政対象暴力とは
 「行政対象暴力」とは,暴行,威迫,その他の不当な手段により行政機関又はその職員に対し違法又は不当な行為を要求する行為である(甲41の1:東京弁護士会民事介入暴力対策特別委員会編「民事介入暴力対策マニュアル第4版」315頁)
 従前,行政機関に対する不当要求等の行政対象暴力の問題は,企業や市民の民事介入暴力披寛と比較して,クローズアップされることが少なかった。しかしながら,近年,暴力団の資金獲得活動が多様化していく中で,暴力団が,各種事業の許認可等の権限を有する行政機関に対し,その権限を自己又は第三者の有利となるように行使することを不当に要求する事案が日立つようになり(甲41の2:37頁),平成20年には,暴力団対策法が改正され,行政庁に対する不当な要求行為が暴力的要求行為(同法9条)へ追加されるに至るなど,行政への不当な要求行為等が問題視されるようになった。なお,このような要求行為の主体は,暴力団に限られない。
(2) 行政機関へのアンケート結果
 平成19年5月から6月にかけて,日弁連民事介入暴力対策委員会,全国暴力団追放運動推進センダー,及び警察庁刑事局組織犯罪対策部が,共同で,全国の自治体を対象に,暴力団等の反社会的勢力による行政機関に対する不当な要求等の実態やこれに対する行政機関の対応等をアンケート調査している(甲41の3:326頁,甲42)。
 この結果,過去に不当要求等を受けた経験の有無について,「ある」とするものが全体の33.5%,このうち「最近1年間に不当要求等を受けた」とするものは52.4%を占めた。
 また,最近1年間に不当要求等があったとするものについて,不当要求等を行う主体の内訳は,「政治活動標ぼうゴロ」(38.6%),「社会運動標ぼうゴロ」(32.3%),「その他」(31.2%)が,「暴力団」(11.5%)や「暴力団関係企業」(7.2%)を大きく上回っている。また,不当要求等の態様は,「電話を架けてきた」(79.6%),「来庁してきた」(57.1%)など,行政機関に直接働きかける態様のものが多数に及んでいる。
 また,行政機関が一部でも不当要求等に応じた事案で,応じた理由をみると,「威圧感を感じたから」という理由が,32.2%を占めている。
(3) 大声を上げる行為,態度で威嚇する行為の行政対象暴力該当性
 このような現状の中,地方公共団体では不当要求に適切に対応できるよう,不当要求防止責任者を選定し,講習を受けさせるなどしており,群馬県においても,総務部学事法制課に行政対象暴力係が設けられている。
 千葉県,沖縄県など,地方自治体によっては対応マニュアルを作成している。これらの県の対応マニュアルでは,「暴行,威迫,その他の不当な手段」にあたる行為の一つとして,「粗野又は乱暴な言動により,他人に恐怖又は嫌悪の情を抱かせる行為」を挙げ,その内容として,「大声を出したり,相手を罵倒するなど,相手に不安感を生じさせる行為」を挙げている(甲43:千葉県総務部総務課「適正な行政執行の確保に向けて」1頁,甲44:沖縄県総務部人事課「行政対象暴力対応マニュアル」1頁)。
 また,具体的な事例として,「大声を上げたり,態度で威嚇されたり,テーブルを叩かれたりした場合,どのように対処したらよいか。」を挙げ,その対応要領を載せている(甲43:10頁,甲44:10頁)。
 このように大声を上げる行為や態度で威嚇する行為は,威迫行為の一つとして,行政対象暴力の典型例であるとされている。
(4) 行政対象暴力についての一般市民の認識
 上述したような行政対象暴力については,近年,新聞・テレビ等の報道でも数多く,また大きく取り上げられており,一般市民にもその存在は広く認識されている(甲45の新聞記事は,その数ある報道の中の一部である)。
 行政に対して大声を上げる行為や態度で威嚇する行為が,行政に対する威迫行為であるとの認識は,一般市民の認識にもなっているのである。
(5) 小括
 このような行政対象暴力の現状,及び,一般市民に対する報道等をふまえると,被告岡田の作成した「おしらせ版あんなか」41号の「談話」にある,市長との対談において原告らが冒頭から「目を見て話をしろ」と怒鳴ったとの記載は,一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈しても,行政対象暴力として,原告らが自己の主張を通すために意見交換会の冒頭から被告らを威嚇し,不当要求を行ったかのように記載したものである。
 かような記載が,安中市の地域活性化・自然保護等のために従事し,その活動を高く評価され,多くの賞を受賞するなどして築き上げてきた原告らの社会的評価を低下させるものであること,すなわち名誉毀損行為に該当することは,論を俟たない。
 そして,かかる内容について,被告らが,一般の報道と比しても公正さが求められるべき市の広報詰において,あたかも被告ら自身が行政対象暴力の「被害者」であるかの如く記事を作成・掲載・配布している点て,その名誉毀損の態様は悪質であるという他ない。

第16 原告松本個人に対する名誉毀損について
1 総論
 被告らの掲載・発行した「談話」(甲1の1)には原告松本個人の実名こそ記載されていないものの,当該記事が,原告松本個人の社会的評価をも低下させる名誉毀損であることは明らかである。
2 本件記事は新聞報道を前提としていること
(1) 被告岡田が本件記事「談話」の冒頭で下記の通り記載しているとおり(下線原告ら訴訟代理人),当該記事は新聞報道を前提としたものであった。
 「過日,新聞などにより報道された,市有施設でのマーケットの開催について,多くの皆さんから広報紙などで説明して欲しいという声が寄せられましたので…」
(2) そして,実際の新聞報道記事を見れば,例えば平成19年10月20日朝日新聞記事(甲2の1)においては,
 「中止になったのは,市民有志でつくる『地域づくり団体 未来塾』(松本立家代表)主催の第32回『フリーマーケットinあんなか』。」
 「松本代表らは9月10日に,岡田義弘市長ら市幹部と話し合った。」
と報じられている。すなわち,原告未来塾の代表者が原告松本であること,また,原告松本が平成19年9月10日の意見交換会に出席していたことは,一般読者らにも明らかとなっていたのである。
 このほかにも,原告未来塾代表が原告松本であることや,本件フリーマーケット中止に関する原告松本個人のコメント等は,新聞各社・テレビ報道などによって報じられていた。
(3) したがって,@被告の本件「談話」における事実摘示は,団体たる原告未来塾団体に対してのみならず,同時にその代表たる原告松本にも向けられていたものであり,A一般読者の普通の注意と読み方を基準として見ても,本件「談話」は,あたかも原告松本も私利私欲のためにフリーマーケットに関し不正な活動に従事しているかのように虚偽の事実を摘示し,かつ,被告安中市関係者との話し合いに際して,原告松本自身が不誠実な態度を示す者であるか,ないしは,不誠実な態度を示す者の所属する団体の長であるかの如き虚偽の事実をも摘示するものである。

3 実際に原告松本の名誉が毀損されていること
 原告松本は,長年にわたって原告未来塾の代表を務め,地域のためのボランティア活動を継続しており,平成16年5月3日には群馬県から群馬県総合表彰「地域づくり功労賞」を受賞するなどしていたところ,当該記事掲載により,それまで築き上げてきた社会的評価を低下させられ,実際にも,原告松本が周囲の者から「いつもニコニコしているけれど,あんな人だとは思わなかった」「松本さん,不動産業もやっているんだって?jと言われたり,いつも挨拶等声を掛けてくれる人が原告松本に声を掛けなくなったりした(甲50:23頁)。
 原告松本は,かかる精神的な苦痛によって体調を崩し,ストレス性の動機や不整脈を抑える薬も飲むようになった(甲50:24頁,原告松本:20頁)。

4 判例
(1) ある者に対する言及が他の者の名誉を毀損する事例
 名誉毀損訴訟においては,ある者(甲)に対する言及が他の者(乙)の名誉を毀損すると認められる判例が,下記の通り多数存する。
 ・代表取締役会長(甲)の行為につき,会社(乙)の名誉を毀損すると判示した東京高裁平成6年9月7日判決・判例時報1517号40頁
 ・父親(甲)が犯罪容疑で逮捕されたとの事実検示につき,娘(乙)の名誉を毀損すると判示した東京地裁平成11年6月22日判決・判例時報1691号91頁
 ・著名な建築家の名前を冠し,当該建築家の実績で仕事を受注している会社(乙)につき,当該建築家(甲)に関する名誉毀損がその会社の名普段損にもなる旨判示した東京地裁平成13年10月22日判決・判例時報1793号103頁
 ・会社の社長(甲)が違法に株価操作をしたとの事実検示について社長の名誉を毀損するほか,当路会社に)の名誉も毀損するとした東京地裁平成15年7月25日判決・判例時報1994号69頁。
 特に,出版社である被告が発行する週刊誌に掲裁された記事により,名誉を毀損されたと主張する財団法人及びその代表者が,被告に対し損害賠償等を請求した事案において,東京地裁平成18年11月7日判決・判例時報1994号69頁は,下記の通り明確に判示している(下線原告ら訴訟代理人)。
 「当該記事の内容・構成等に照らし,団体の長に対する名誉毀損行為が,同時にその団体に対しても向けられてその団体の社会的評価をも低下させるものと認められる場合には,同団体に対する名誉毀損行為をも構成するものと解され,また,団体に対する名誉毀損行為が,同時にその長に対しても向けられてその長の社会的評価をも低下させるものと認められる場合には,その長に対する名誉毀損行為をも構成するものと解すべきである。」
 したがって,被告らの原告未来塾に対する名誉毀損行為は,同時にその長である原告松本に対しても向けられ,原告松本の社会的評価を低下させるものであることから,原告松本に対する名誉毀損行為をも構成する。
(2) 実名の記載がなくとも名誉毀損が成立すること
 また,原告松本個人の実名が「談話」に記載されていない点をもってしても,名誉毀損の成立は妨げられない。
 実名が記されていない場合でも名誉毀損が認定された例は枚挙に暇がなく,例えば,東京地裁平成18年9月28日判決・判例タイムズ1250号228頁は,
 「実名が記載されていなくとも,記事の記載内容から,当該対象者の属性等について一定の知識,情報を有している者らによって,対象者の特定がなされる可能性があり,さらに,これらの者から,特定された対象者が不特定多数の第三者に伝播する可能性があれば,名誉毀損における対象者の特定については十分であるというべきである。」
と明確に判示している。
 上述の通り,「談話」以前の新聞報道等から,原告未来塾の代表者が原告松本であり,原告松本個人も意見交換会に出席していたことはすでに一般市民らに特定されていたのであって,本件「談話」に原告松本の実名が記載されていないことをもって被告らの責任を免れることにはならない。

5 小括
 以上のとおり,被告らの掲載・発行した「談話」(甲1の1)が,原告松本個人の社会的評価をも低下させる名誉毀損であることは明らかである。

第17 真実性,真実相当性の欠如,故意・重過失
1 最高裁判例
 民事上の不法行為たる名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実に係り,専ら公益を図る目的に出た場合において,摘示された事実が真実であることが証明されたときは,右行為には違法性がないため不法行為は成立せず,また,公共の利害に関する事実に係り,専ら公益を図る目的に出た場合において,仮に摘示された事実が真実でなくても行為者において真実と信ずるについて相当の理由がある場合には,故意もしくは過失がないものとして不法行為は成立しない,とするのが最高裁判例である(最判昭和41年6月23日民集20巻5号1118頁)。

2 真実性の欠如
 「摘示された事実が真実であることjの要件を満たさないことは,すでに本最終準備書面「第9」において詳述した通りである。
 「目を見て話をしろ(冒頭から怒鳴る)」などを始めとして,本件記事に記載されている各事実自依存しないうえ,記事全体から一般の読者が普通の注意と読み方で受け止める,「原告らが私利私欲のためにフリーマーケットに関し不正な活動に従事し,また,被告安中市関係者との話し合いに際しても不誠実な態度を示す者・団体であるjとの事実について,全く真実に反していることは明らかである。

3 真実相当性の欠如,故意・重過失
(1) 総論
 「行為者において真実と信ずるについて相当の理由がある」と評価しえないこともまた明らかである。
(2) 故意
 被告岡田は,自らの私的満足等の目的のために,故意に虚偽の内容を本件「談話」に記載した。
 特に,長澤建設部長が「談話」に代わる文章を作成していたにもかかわらず,被告岡田はあえてその記事を差し置いて,本件「談話」を作成・掲載させている(甲55:9頁,証人長澤15頁)。
 また,被告岡田は,各部長らに「談話」が事実と異なることを指摘させえない状況を自らが積極的に作出していた。被告岡田は,「談話」の記事について,総務部長,建設部長,及び教育部長に対して内容を確認するよう求め,同人らから訂正は一切なかったと主張し(被告岡田第1準備書面37頁),それに沿う各部長の陳述書が提出されているが,すでに述べたように長澤建設部長は,事実と異なっていることを任命権者である市長に対して言うことができない,言えばクビになる旨を述べているのである(甲55:5頁)。
 被告岡田の故意の程度は悪質であるという他ない。
(3) 被告岡田の重過失
 仮に万一故意が認められないとしても(原告らとしては断じてこれを容認する趣旨ではないが),被告岡田に重過失が存することは明らかである。
 被告岡田は,いやしくも市民から選出された公務員として,地域に貢献すべき重大な責務を負う市長である以上,市の広報物に自ら記事を掲載する場合には,事実関係を公正かつ真摯に確認すべきであったのにもかかわらず,下記のとおりこれを怠っており,被告岡田には重過失が存する。
ア 「談話」の記載内容を裏付ける証拠の不存在
(ア) 被告岡田は,同席していた各部長らに,意見交換会の議事録・メモ類を一切作成させていない。被告らは,本訴訟においても被告安中市の内部文書を書証で複数提出しているが(丙6,丙8−2,丙10−1,丙10−2),肝心の意見交換会の議事録が作成されておらず,通常時の行政の対応と比して杜撰と言わざるを得ない状況であった。
 なお,被告岡田が本訴訟の途中で提出した「要点筆記」(丙17)が後日作成された虚偽のものであることは,すでに詳述した通りである。
(イ) かように「談話」の記載内容を裏付けるものがない状況で,被告岡田は,原告らの社会的評価を低下させる内容の記事を,全く安易に作成し,配布したのであって,被告岡田に重過失が存することは明らかである。
 この点に関して,被告岡田は本法廷でも,裁判長からの質問に対し下記の通り証言した(被告岡田:27頁)。
 裁判長 逆に,立会いされている職員の方に,あとで問題が起きないように,あるいはそごを来さないように,記録をきちんと取ってばレいと,そういう要請をすることはないんでしょうか。
 岡田  あります。
 裁判長 今回の場合は,その指示はされたんでしょうか。
 岡田  いや,しません。
 (略)
 裁判長 ふだん記録を取るように指示される場合は,先ほど質問の中でも申し上げましたけれども,何かそごがあったり誤りがなかったりするようにということだと思うんですが,今回はその指示はされていないわけですよね。
 岡田  はい。
 (略)
 裁判長 要するに,一から十まで全部正確な議事録のようなものではなくて,部分的に取り上げることについて,あるいは市長のメモ的なものに基づいて外に出すことについて,何か抵抗はございませんでしたでしょうか。
 岡田  ありません。
イ 長澤建設部長の記事を差し置いて「談話」を作成したこと
(ア) 長澤建設部長は,「談話」に代わる文書を事前に作成し,それを掲載する予定であった。しかしながら,被告岡田はこれを止めて,あえて本件「談話」を作成している。
 被告安中市は,原告らからの求釈明に対し,「被告岡田義弘が原稿を作成するよりも前には,同席した部長は原稿を作成していない」と回答したが(被告安中市準備書面(1)7頁),明らかに事実に反する。
(イ) 長澤建設部長が「談話」に代わる文書を作成していたことは,長澤建設部長白身が認めており(甲50:27頁),法廷でも下記の通り述べている(証人長澤:15頁)。
 原告ら訴訟代理人山下  市の広報に掲載された岡田市長の談話の記事ですけれども,この記事とは別に,あなたが広報に載せる記事を作ったのに掲載されなかったという事実はありませんか。
 長澤  はい,あります。
 山下  安中市は,この裁判の準備書面の中で,岡田市長以外には同席していた部長は原稿は作成しないと主張してますが,それは間違いですよね。
 長澤  あの。
 山下  はいか,いいえで答えてください,間違いですよね。
 長澤  ・・・・・。
 山下  もう一度聞きますよ,あなたが原稿を作っていましたよね。
 長澤  はい。
(ウ) また,被告岡田自身も,長澤建設部長の文言があったことを,結局法廷で認めている(被告岡田:11頁)。
 被告安中市訴訟代理人渡辺  長澤さんから別の何か書類を作ったということがあったんですか。
 岡田  はい。それは,私が3部長に,その談話の内容を届けたあと,長澤建設部長が文書を持ってきました。
 渡辺  どういう文書だった。
 岡田  それは,今後よく話し合って,それでフリーマーケットできるように協議しましようと,こういう内容です。
ウ 長澤建設部長の意見を無視して「談話」を掲載したこと
(ア) 被告らの主張によれば,被告岡田が「談話」掲載前に意見交換会に出席していた各部長に修正点の有無を確認したとのことである(被告岡田第1準備書面36頁,丙2)。
 その際,長澤部長は,文章が強いのではないかと被告岡田に意見を述べており,この「談話」を発行するのが適切ではないと進言されたにもかかわらず,それを無視してあえて「談話」を掲載したのである。
(イ) 長澤建設部長は,下記のように法廷で証言した(証人長渾:11頁)。
 被告安中市訴訟代理人渡辺  その原稿などは,あらかじめ見せてもらいましたか。
 長澤  はい,見せてもらいました。
 渡辺  訂正か何かの申出はしましたか。
 長澤  私は,これは非常に市長の思い込みといいますか,非常に強い文章だったものですから,ちょっとこれ文章強いんじゃないですかとは市長には言いました。
エ 「公表したくなかった」とする被告岡田の主張の虚偽性
 被告岡田は,「岡田は市長として,行政運営者として公表はしたくはなかったのであるが,やむなく談話という形で,内容を公表して説明したのが真実である」(第1準備書面10頁),「未来塾関係者との話し合いの内容などは公表したくないと考えていた」(準備書面(3)36頁)などと主張するが,明らかに虚偽である。
 もし真に「公表したくなかった」と考えていたのであれば,公表の可否や公表の方法・内容について,被告岡田が独断するのではなく,各職員とともに検討するのが当然である。
 しかしながら,本件談話の掲載が「広報紙発行の最終決裁者である市長の強い要望によるもの]であったことは,被告安中市自身が認めているところである(被告安中市準備書面(2)4頁)。
 鳥越行政課長は,原告未来塾に対し「訂正とお詫びを早急に市民に周知するよう要請する必要がある」と意見を述べていたのであるから(丙6:4頂),もし「公表し良くなかった」のであれば,鳥越行政課長のいうようにまず原告らに対し要請を行うということもできたはずである。それにもかかわらず,被告岡田はそのょうな要請を一切行わずに「談話」を掲載したのである(被告間日:21〜22頁)。
 実際には,被告岡田は「公表したくなかった」のではなく,むしろ積極的・強硬に「談話」を作成し掲載させていたのである。
オ 鳥越行政課長とも相談していないこと
 鳥越行政課長は,フリーマーケット会場の使用許可に関して,「許可申請が出されたかどうか」「許可申請が不許可となかったどうか」の情報は個人情報であって市民の問い合わせに対して開示することができない旨の意見を述べている(丙6:3項)。
 個人情報が原則非公表となる趣旨は,それがプライバシーであってみだりに他人に公にされれば平穏な生活が妨げられるおそれがあるからである。本件において,鳥越行政課長は,会場の使用許可についてすら,その「個人情報」として公表できないと意見を述べていた。それにもかかわらず被告岡田は,個人情報を問示しプライバシーを侵害するよりもはるかに被害の甚大な,市民・団体の名誉を毀損する「談話]を公表することについて,鳥越行政課長と全く相談していなかったのである(被告岡田:22〜23頁)。
カ 原告らへの確認の懈怠
 被告岡田は,「談話」の発行よりも前に,その記載内容が事実に反しているか否かを,原告らに確認したうえ,不掲載とする,あるいは適切に修正する,ということが容易に可能であったにもかかわらず,これを怠った。
 被告安中市ではこれまでも,市の広報紙にフリーマーケットの記事を掲載してきたが(甲53),それがたとえ数行の記事であっても,その内容に誤りがないかどうかについて,事前に原告らに確認があった(甲50:23頁,原告松本:17頁)。
 しかしながら,本件「談話]について,被告岡田は,原告らに対し,当該記事内容の正確性について事前確認を行わなかったのである(甲50:23頁,原告松本:17頁)。
(4) 被告安中市の重過失
ア 広報編集会議の不開催
 「談話」を掲載するにあたり,「広報編集会議」(安中市広報紙発行規則第9条,甲34)は開催されなかった(被告安中市第1準備書面7頁)。
 規則上,同会議は「必要かおるとき]に開催され,「原稿について取捨選択又は適宜修正することができる」とされているところ,被告岡田による「談話」は本件以前に1度しか掲載されたことのない不定期なもので,かつ,本件「談話」が原告らの社会的評価を低下させる内容のものであることはその記載内容から明らかだったのであるから,まさしく広報編集会議を開催する「必要がある」場面であり,同会議において「談話」の名誉毀損該当性・真実性等を十分に検討したうえ「取捨選択又は適宜修正する」対応をとるべきであった。
 ところが,被告安中市は広報編集会議を開催しておらず,開催すべきか否か検討した形跡も皆無である。
イ 事前確認時における対応
 被告らの主張によれば,被告岡田が「談話」掲載前に意見交換会に出席していた各部長に修正点の有無を確認したとのことであるが(被告岡田第1準備書面36頁,丙2),その事前確認時回答部長は,事実に反し原告らに損害を及ぼす本件「談話」の掲載を中止させたり,修正させたりしなかった。
 長澤部長が代わりの文章を作成したり,「ちょっとこれ文章強いんじゃないですか」と意見を述べてはいるものの(証人長澤:11頁,15頁),結局「談話」の発行を中止させたり,修正させるには至っていないし,他の部長については何らの対応もとっていない。
 被告安中市自身,意見交換会において,被告岡田が「地震に関する寄付はわかりましたjと(いう趣旨のことを)述べて募金に関するやりとりが終了した事実や,駐車場利用に関する原告らの主張を認めているのであるから(被告安中市第1準備書面6頁),なおのこと「談話」の記事を不掲載とするか,あるいは修正するなどの対応をとるべきであった。
ウ 原告らへの確認の鸞怠
 被告岡田のみならず被告安中市職員らも,原告らに事前の確認を行うことが可能であったにもかかわらず,これを怠っている。

第18 公益目的性の欠如
 被告岡田の本件記事は,フリーマーケットの会場として被告安中市の公園・施設の利用についてのものであって,「公共の利害]に関するものであることは原告らも特段争わないが,「談話」作成・掲載・配布が「専ら公益を図る目的」であったものとは到底評価しえない。
 被告岡田は,ボランテイアの無慣性を曲解し,フリーマーケットの参加費の徴収をすべきでないという独自の見解を元に原告らの公園使用許可申請を受理せず,平成19年9月10日の「意見交換会」においても,その独自の主張を展開した。
 また,被告岡田は本件記事作成後,マスコミ等で報道がなされ,各地の住民説明会でも説明を求められるや,フリーマーケットの会場使用を拒絶する理由を変遷させている。後日,被告岡田は,「会場のそばに市営住宅や個人住宅があり,夜勤勤務明けの方や病弱者・乳幼児の安眠への配慮が必要]などの理由を持ち出しているが(甲27),そのような主張は平成19年9月10日の「意見交換会」では一切出ておらず,加えて,当該会場の周辺住民らからは,「迷惑はない」「もっとやってほしい」 とフリーマーケット開催を望む声が多かった(甲3)。
 平成20年2月19日付けで被告岡田が建設部長を通して原告らに手渡した「フリーマーケット開催会場について」と題する文章では,「今後のフリーマーケットの開催は西毛運動公園広場を使用されたくご要請を申し上げます」と記載されているが(甲27),同公園は15年前のフリーマーケット開始当時の,70区画しか取れない小規模な会場であり,被告岡田の要請は,原告らのフリーマーケットを妨害する悪質な嫌がらせという他ない。
 被告岡田は,以上のような背景をもとに,被告岡田独自の見解に基づく私的な満足を得るため,また,何としても現状のフリーマーケットを中止に追い込む嫌がらせのため,等の目的から,本件記事を敢えて掲載したのであって,「専ら公益を図る目的」からなされたものではない。

第19 「言論の応酬」の免責の法理について
1 総論
 被告安中市は,「言論の応酬」の免責の法理による違法性阻却を抗弁として主張するが(被告安中市第1準備書面3頁),全く失当である。

2 言論の応酬の法理の趣旨及び最高裁判例
(1) 言論の応酬の法理の趣旨
 言論の応酬の免責の法理は,当該表現行為が名誉毀損行為である場合でも,それに先行して相手方が表現者に対して名誉毀損行為等の権利侵害行為を行っている場合に,これに対抗する名誉毀損行為が,正当防衛(民法720条)の場面以外であっても(すなわち急迫性のない場合であっても),免責の余地がありうる,とする理論である。すなわち,先行して相手方からの名誉毀損行為等の権利侵害行為が存在することが前提となる。
(2) 最高裁判例
 最高裁昭和38年4月16日判決・民集17巻3号476頁は,言論の応酬の法理と同様の判示として「自己の正当な利益を擁護するためやむをえず他人の名誉,信用を毀損するがごとき言動をなすも,かかる行為はその他人が行った言動に対比して,その方法,内容において適当と認められる限度をこえないかぎり違法性を缺く」としている。

3 本件では言論の応酬の法理の適用の前提を欠いている
(1) 「未来塾ニュース」は名誉毀損等に当たらない
 本件で原告未来塾が発行した「未来塾ニュース」(乙10)裏面におけるフリーマーケット開催断念に至る経過や意見交換会の内容に関する記事は,いかなる者の名誉も毀損せず,権利も侵害していない。記事内容は事実に反しておらず,公共の利害に関するもので,専ら公益を図る目的で作成されたものである。先行する原告らからの名誉毀損等権利侵害行為自体が存しない以上,被告らの「談話」による名誉毀損行為の違法性は阻却され得ない。
ア この点被告安中市は,「ボランテァ」との誤記を原告らがその通りに引用した点について「悪意が感じられる」などと主張するが,むしろ原告らは真実に合致するよう正確に引用したのであって,この点をもって非難される謂われなどない。
イ 被告岡田は,会場の使用許可申請が「不受理」となった旨の「未来塾ニュース」の記載に開し,「不受理とされま士だの記述は明らかに事実に反するjと記された丙6号証(ただし作成日・作成者等は現在のところ不明)を提出している。
 しかし,原告らの許可申請が被告らによって受理されなかったことは事実である。
 安中市は,意見交換会の中で,原告未来塾の■■■■である■■が,被告安中市担当者から「今日の段階では,使用許可が出せないので,申請書をお預かりするか,お持ち帰りください」と言われたという趣旨の発言をしており,持ち帰らずに預けることができたなどと主張する(被告安中市第1準備書面3頁)。しかし,■■は意見交換会の中で,「通常であれば原告らが申請書を持って行くと安中市から記入・押印されたものを切り取って渡されるのに今回に限っては上から保留にしなさいと言われているので渡せない,保留したとしても結論がいつになるのかわからないと言われたので持ち帰った」旨を,併せて明確に説明している。かような経過で■■■■の■■が申請書を持ち帰らざるを得なかったことを,「不受理」と表現することは,むしろ実態に即している(甲51:6頁)。
(2) 原告らに対し質問・要請を行っていない
 鳥越行政課長は,この点に関して,以下のように意見を述べていた(丙6:4項)。
 「市からは,未来塾代表松本立家氏に対しては,書面で未来塾ニュースに掲載された内容が事実と異なるので,訂正とお詫びを早急に市民に周知するよう要請する必要がある。それと同時に,なぜこのような事実と異なる記述をあえて市民に周知したのかを確認する必要がある。」
 しかしながら,実際には原告らに対し,何らの要請も確認もなく,「談話」が発行されている。「談話」を発行する前に,原告らに対し要請や確認も行えないような緊急性は全く存しない。
(3) 最高裁判例へのあてはめ
ア 上記最高裁の規範によっても,被告らが「自己の正当な権利を擁護するためやむをえず」談話を掲載したとは到底解し得ない。
 被告岡田は,「談話」発行の理由について,「未未墾関係者との話し合いの内容など公表したくないと考えていたのであるが…未来塾の一方的な報道では理解ができないので当然,広報等で知らせるべきだ…との声が寄せられたのである」などと主張し,その根拠として丙1号証(だだし作成者は不詳)を挙げる(被告岡田第1準備書面10頁)。
 しかし,丙1号証に記載されている市民の声は,いずれも,フリーマーケットの開催を望む内容のものであり,被告岡田の言うような,「未来塾の一方的な報道では理解ができない」などとの声は一切記されていない。
 また,丙1号証には市民の声として「市の考えを説明してもらいたい」「市の考え方を聞きたい」と記載されているが,被告らが「談話」に掲載したのは,市(ないし被告岡田)の考えではなく,意見交換会の内容の報告(しかも虚偽・歪曲のあるもの)であった。そして,被告岡田は,意見交換会において,「ボランティアならば無償でやるべきとの市民の指摘がある」「露天商組合というものと同じじやないかという指摘があるjなどと,「市民からの指摘がある」との主張を繰り返すだけで,被告岡田自身や被告安中市自身の見解・考えを原告らに対し明確に述べず議論をはぐらかせ続けていたのである。
イ また,表現行為の方法・内容の点においても,原告らが「未来塾ニュース]でいかなる名誉毀損行為・権利侵害行為も行っていないのに対して,被告ちは,市の財政を用いて市内全戸に配布する市の広報物に事前に原告らに確認もせず,「目を見て話をしろ(冒頭から怒鳴る)」などの記載を始めとして事実関係を歪め一方的な見解に基づく内容を記載し,原告らの社会的評価を既めたのである。被告らの名誉毀損行為は,その方法,内容において著しく限度を超えていることは明らかである。
ウ したがって,最高裁判例の規範によっても,被告らの名誉毀損行為の違法性は阻却され得ない。

4 反論可能性を理由とする免責は認められない
 被告安中市は,「原告未来塾においても機関紙未来塾ニュースで,さらに本件『談話』に対する反論を行うことができるため,『対抗言論の理論』として許される範囲内のものである」などとも主張するが(被告安中市第1準備書面4頁),これとて失当である。
 上記最高裁判決は,すでに名誉毀損行為が先行している場合に反論としての表現行為の違法性が阻却されるか否かの問題であり,反論可能性を理由とする違法性阻却を論じたものではない。
 相手方による将来の反論可能性が,既になされた表現行為による名誉毀損の成否に影響を与えないことは,論ずるまでもなく明白である。東京高裁平成13年9月5日判決・判例時報1786号80頁も同様に判示している。
 ましてや,本件は,被告らの表現行為は,市の財政を用いて,市長が記事を作成して市の広報に掲載し市内全戸に配布したのである。これと,一任意団体である原告未来塾,一市民である原告松本の表現行為とを同列に並べ,「反論可能性があるから被告らの名誉毀損行為に違法性がない」などと主張することは,到底認められない。

IV 法的主張A ―名誉感情侵害・人格権侵害―

第20 名誉感情の侵害
 「談話」の内容が,原告松本の社会的評価のみならず名誉感情を侵害することも当然である。
 名誉感情の侵害を理由に損害賠償請求が認容された例は枚挙に暇がない(名誉感情の侵害を理由に損害賠償請求を認容する判例として,最判平成14年9月24日「石に泳ぐ魚」事件,東京地判平成2年7月16日判例時報1380号116頁,名古屋地判平成6年9月26日判例時報1525号99頁他多数)。

第21 人格権侵害
1 総論
 被告らの「談話」掲載・配布により,原告らの名誉が毀損され(社会的評価の低下)また,名誉感情が侵害されたことについては,原告らが従前より主張しているとおり明白であるところ,本件においては,これらに重ねて,原告らの下記に述べる人格権をも侵害するものである。

2 人格権の根拠,最高裁判例,及び保護される内容
 人格権の内容には,名誉権の他にも,氏名を正確に呼称される権利(最高裁昭和63年2月16日民集42巻2号27頁),自己の容貌・姿態をみだりに撮影・公表されない権利(最高裁昭和44年12月24日刑雄23巻12号1625頁,最高裁平成17年11月10口尻雄59巻9号2428頁),前科等をみだりに公開されない権利(最高裁昭和56年4月14日民集35巻3号620頁,最高裁平成6年2月8日民集48巻2号149頁),氏名・住所・電話番号等を他者にみだりに開示されない権利(最高裁平成15年9月12日民集57巻8号973頁),個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない権利(最高裁平成20年3月6日民集3号665頁)等が含まれる。
 これらの権利が人格権として保護されるのは,氏名や容貌・姿態,その他各種個人清報礼個人の重要な身上,生き方,人格形成と強く結びついており,それらの尊重・保護が,個人の人格的生存に必要不可欠であるが故である(憲法13条)。
 したがって,「自己の重要な身上,生き方,人格形成と強く結びついた活動に関して,正確に周知され,ないしは,誤った情報をみだりに流布されない権利」もまた,個人の人格的生存に必要不可欠であることから,人格権の一内容として,不法行為法上の保護を受けるべきことは明白である(なお,東京高裁平成21年5月13日判決(乙13)参照)。
 そして,私生活の平穏(最高裁平成元年12月21日民集第43巻12号2252頁)や,内心の静穏な感情を害されない利益(最高裁平成3年4月26日民集45巻4号653頁)も法的保護の対象となっていることに鑑みると,「自己の重要な身上,生き方,人格形成と強く結びついた活動を平穏に行うことを妨げられない利益」もまた,人格権の一内容として,不法行為法上の保護を受けるというべきである。

3 本件におけるあてはめ
(1) これを本件について見るに,原告松本は,長年にわたって原告未来塾の代表を務め,地域のためのボランティア活動を継続し,群馬県から群馬県総合表彰「地域づくり功労賞」を受賞するなどしており,本件フリーマーケットを含めた地域づくり活動は,同人の重要な身上,生き方,人格形成と強く結びついた活動である。また,原告未来塾についても,本件フリーマーケットに代表される地域づくり活動自体が,その重要な設立目的である(甲29。なお,自然人でなく団体であっても人格権が認められることは,団体・法人の名誉が保護の対象となっていることからも論を俟たない)。
 そして,被告ら執その地方公共団体の広報紙という,公的かつ影響力の大きい媒体を用いて,原告らが「目を見て話をしろ」と冒頭から怒鳴ったなどの記載を始めとして事実関係を歪めた記事を,安中市全戸に配布したため,原告らの人格的生存、・存立基盤である地域づくり活動に関して誤った情報が流布された。さらに,その記事によって原告ら自身が心理的に抑圧され多大な精神的苦痛を被っただけでなく,周囲からも,原告らがあたかも私利私欲のためにフリーマーケットに関し不正な活動に従事し,また,話し合いに際しても不誠実な態度を示す者・団体であるかのように誤解されて,謂われのない非難を受けるなどし,フリーマーケットという地域づくり活動を,従前のように平穏に行うことが妨げられたのである。
(2) この点に関し,原告松本は,下記の通り証言している(原告松本:20頁)。
 原告ら訴訟代理人山下  あなた自身にとって,また,未来塾という団体にとって,このフリーマーケットはなくてはならない,不可欠な重要な活動でしたよね。
 松本  はい。
 山下  そのような重要な活動について,このような談話が掲載されても,なお,あなたやメンバー,スタッフたちが何事もなかったかのように,これまでと同じような気持ちでフリーマーケットに取り組むということができますか。
 松本  いいえ,できません。
 山下  それは,単にイベント業としてやってるんではなくて,信頼がとても重要だからと,こういうことですよね。
 松本  はい。フリーマーケットは大勢の皆さんの協力がなければできないイベントです。また,ボランティアだけでなく,あらゆる機関,行政も含めてですけど,あらゆる機関の協力があって,それが一休となってできるイベントなんです。ですから,このようなことがあって,我々の信頼が失われたこのことによって,これはこのままでは絶対にできません。

4 小括
 したがって,被告らの「談話」の掲載・配布は,原告らの名誉を毀損し,名誉感情を侵害することはもちろんのこと,原告らの上記人格権も侵害するものであって,被告らが不法行為責任を負うことは明白である。

V 法的主張B ―被告岡田・被告安中市の責任,損害―

第22 被告岡田の責任
1 被告岡田が,名誉毀損・名誉感情侵害・人格権侵害につき,民法709条の不法行為責任を負うことは明白である。
2 なお,被告安中市に国家賠償法上の責任が認められる場合でも,加害公務員本人に故意又は重過失があった場合には,当該公務員は民法709条(国家賠償法1条ではない)の規定による責任を負担すべきであり,またそのような場合の加害公務員と国又は公共団体の責任は不真正連帯債務の関係に立つと解すべきである(同旨判例として東京地判昭和46年10月11日下民集22巻9〜10号994頁)。
 そして,被告岡田には既に述べたように故意・重過失が認められることから,被告安中市に国家賠償法上の責任が認められても,被告岡田は免責され得ない。

第23 被告安中市の責任
1 被告岡田の行為に関する責任
(1) 国家賠償法上の責任
 上記の通り,被告岡田の行為が不法行為を構成することから,被告安中市は,国家賠償法1条1項責任を負う。
(2) 使用者責任(民法715条)
 また,被告岡田の行為は,「事業の執行」についてなされたものであるから,被告安中市は,民法715条の使用者責任も負う(公務員の不法行為につき地方公共団体・国に民法715条責任を肯定した判例として,最高裁昭和57年4月1日民集36巻4号519頁,東京地裁平成16年1月30日判例時報1861号3頁,東京地裁昭和52年5月27目判決判例時報878号84頁,静岡地裁浜松支部平成8年2月19日判決判例時報1588号130頁,松山地裁平成13年6月22日判決判例時報1778号126頁等)。

2 「おしらせ版あんなか」の編集・発行・配布・掲載に関する責任
 被告安中市は,上記の通り,被告岡田の行為について責任を負うと共に 被告安中市自身が,漫然と「おしらせ版あんなか」を編集・発行・配布した行為について,国家賠償法上の責任を負う。
 具体的には,@意見交換会に出席していた総務部長,建設部長,及び教育部長について,被告岡田から「談話」の記事を事前に見せられていたにもかかわらず,事実と異なり原告らの名誉・名誉感情を毀損し人格権を侵害する当該「談話」の発行を取り止めさせたり,内容を修正させたりせず,原告らに事前の確認もせず,そのまま掲載している行為,A会場使用許可の有無についてさえ情報公開として公表できないと被告岡田に意見を述べていた鳥越行政課長について,「談話」の原稿を被告岡田から受領していながら(被告岡田:22頁),当該「談話」の発行を取り止めさせたり,内容を修正させたりせず,原告らに事前の確認もせず,そのまま掲載している行為,B安中市広報紙発行規則(甲34)上,広報紙の企画及び編集上必要があるときに広報編集会議を開催することとされており(9条),これを開催しなかった総務部長,秘書行政課長及び広報広聴担当職員(同条2項)の不作為,について,それぞれ被告安中市は国家賠償法上の責任を負う。

第24 損害
1 慰謝料
 原告らが,被告らから受けた名誉毀損,名誉感情侵害,人格権侵害に対する慰謝料は,その悪質性及び深刻さから,原告松本,原告未来塾それぞれ,少なくとも,金400万円を下るものではない。

2 謝罪記事
(1) また,金銭による補償のみならず,適切な方法により社会的評価を回復する必要がある。市の広報は,地域社会において決定的な影響を及ぼすものであり,その公共性ゆえに高度の信頼性が要求されるものである以上,これによって毀損された名誉を回復するためにも,金銭による補償では不十分である。具体的には,「お知らせ版広報あんなか」への謝罪文の掲載が必要にして不可欠である。
(2) 同様の事例として,小学校内における職員会議において,会議内でなされた教諭の言動を市及び町の広報誌に掲載した行為が名誉毀損に当たるとして,市に対して300万円,町に対して50万円の支払及びそれぞれの,広報詰に「お詫びと訂正」と題する謝原文の掲載を命じた事例(広島地裁三次文部平成5年3月29日判例時報1479号83頁)がある(なお,東京地裁八王子支部平成12年12月25日判例時報1747号110頁参照)。

Y 最後に

第25 本件訴訟の意義
1 本件は,地域活性化のために原告らが労力を割いて長年開催してきたフリーマーケットイベントが,新市長による理不尽な主張により中止を余儀なくされる事態に追い込まれており,それ自体,地方行政のあり方として極めて問題である。他の同種イベントにおいては,出店者から必要最低限の経費分担のために参加費を徴収することは一般的に行われている。地方公共団体としては,かような地域活性化につながるボランティア活動に対して,施設の使用に便宜を図ることや積極的に補助金を出すこと等が期待されこそすれ,本件のように妨害・嫌がらせが行われるなど,未曾有の出来事である。
 これに加えて,本件では,地方公共団体の長が,その地方公共団体の広報紙という,公的かつ影響力の大きい媒体を用いて,「目を見て話をしろ(冒頭から怒鳴る)」などと,事実関係を歪め,自らの一方的な見解に基づく内容を掲載し,地域活性化のために尽力してきた市民らの社会的評価を敗めたという,悪質極まりない事件である。
 本件は,原告らの社会的評価の低下の回復が図られるべきことはもちろんのこと,それのみにとどまらず,ボランティアとはそもそも何か,また,地域活性化のために地方公共団体と市民との連携がどうあるべきか,という本質的な問題を背景としており,本訴訟を通して正常な行政を安中市に回復させる点ても,重要な意義を有している。
2 原告松本及び原告未来塾メンバーも,本訴訟についての思いを,それぞれ下記のとおり述べている。
(1) 原告松本(原告松本:21頁)
 「私たちがいろんな主張をしても,市長の権力,これはすごいものです。市民団体は力を合わせれば何でもできるような気持ちもあったんですけども,実は権力には到底かないません。市長がこんな間違った発言をして,こんなことをやってるにもかかわらず,私たちは地域社会の中からはじかれていきます。この権力と,はっきり,私たちの立場を証明するためには,ここに訴え出るしか方法はございませんでした。」
 「これほど正しいことを私たちがやったにもかかわらず,ほんとに一生懸命やってきたわけです。しかし,どんなに一生懸命やっても,市長のどんという何か,破壊的な何かあると,とても立ち上がれなくなってしまいます。私だけじゃなく,大勢のかかわり合ったボランティアの皆さんは,心の奥の中に潤い傷を持ってます。その傷を,私は責任者として,そのことを治してやれないのが残念です。ぜひ公正な判断をお願いいたします。」
(2) 原告未来塾■■■■・■■■■(甲51:7頁)
 「事実とは全く異なるねつ造された文章を掲載されたことで,私たちが被った精神的な苦痛及び失われた信頼はばかり知れません。これまで私たちの活動を理解し応援してくださった多くの皆さんも,・・・失望や不安を抱いたと思います。・・・今回の出来事で,長い間リ一ダーとして培ってきた私自身の社会的信用や信頼も大きく損なわれました。市民の人権を無視しそれに携わった多くの市民を陥れた事実を許さずにはいられません。一刻も早く真実を明らかにし,市民の皆さんの誤解を解くと共に,岡田市長のトップとしてあるまじき行為と行政の不公平な対応に対し強く責任を追及したいと思います。そして,長く続けてきたこの『フリーマーケットinあんなか』に,ボランティアとして参加し,学校や家庭では学べない多くの事を学び巣立っていった子ども達のためにも,この催しを復活させ,『みんなと一緒に出来る事で,白分たちの住む街を少しでも良く楽しく過ごせる街にしたい』を合い言葉に,地域づくりを続けていきたいと思っています。」
(3) 原告未来塾運営委員・■■■■(甲52:7頁)
 「今回,岡田市長の名誉毀損行為により,私たちは,とても大きな精神的苦痛を負いました。私白身も,『■■■■が市役所に怒鳴り込んできた』『市長を怒鳴った』等,全く謂われのない噂を立てられたりしました。今回自分の街を活性化していこうという私たちの活動が岡田市長に誹謗・中傷されたことにより,将来的に同じような活動をしようとする人は萎縮するでしよう。つまり,岡田市長の今回の行動は,これからの若い芽を潰した事になるのです。
 私は,『自らが行っていることで自分の住む街が元気になっている』という誇りを持って活動してきました。その誇りを,今回,岡田市長によって傷つけられ,私は私の人格形成にとって大切なものを失いました。これは,私だけでなく,今まで長い聞フリーマーケットのスタッフとして一緒に活動してきた子どもたちも同様です。
 今回の岡田市長の行動は,『市長』という権力をもって市民活動を弾圧し,街の活性化を停止させるという,本当に酷い行為でした。絶対に許されることではありません。そして,真実が権力によって歪められ,子ども達の純粋な心が否定されるような事があってはならないのです。
 これからも,ここに住み続けるすべての人たちが,この安中に生活して良かったと思えるような街を作っていかなくてはなりません。なんとしても真実を明らかにし,一刻も早く正常な街に戻し,これからの安中の未来を支える若い世代のー員として活躍したいと思っています。」
3 被告らは,本件訴訟の中でも,原告らが不正な活動に従事し不誠実な態度を取る団体・個人であるかのような主張を繰り返した。かかる主張がいかに事実に反するかは,本最終準備書面で述べたように明白である。
 他方で当の被告ら自身は,市長及び地方公共団体という,法を遵守すべき要請の著しく商い立場にありながら,法廷という厳粛な場で虚偽の主張を繰り返し,挙げ句には,後日作成した虚偽の「要点筆記」(丙17)を平然と提出したり,自己の作成した答弁書について作成を否認したり(被告岡田:18頁),和解に関しても本心とは全く異なった意見を陳述書に提出した(被告岡田:27頁)。
 さらに被告岡田は,本訴訟係属中も,市の税金を用いて開催している地区懇談会において,信用性のない「鑑定書」(丙22)を振りかざすなどして,本訴訟についての自己の立場を喧伝して回り,そこに同席している被告安中市の職員も被告岡田の言動を制止していない。被告らは,原告らの名誉を毀損する行為を今なお継続しているのである。
 かような被告らの不正義を,法が赦すことがあっては断じてならない。

第26 結語
 以上の通り,被告らの責任は明らかである。御庁におかれては,連やかに認容判決を下されたい。
     以上
**********

■コンプライアンス違反だらけの岡田市政ですが、とりわけ重大なのは、原告最終準備書面の第5 2 エ (ウ)「被告岡田の条例・規則等を遵守する態度の欠如」に記載のある「このように,被告岡田は,文書の名義人の了解も,印鑑の管理者の了解もなく,また,本来使用すべきでない印鑑を用いて,勝手に作成し原告らに発送していた」という件です。

 15年前のタゴ51億円巨額横領事件で、市長や公社理事長印をはじめ、担当部課長印が勝手に使われて公文書が山ほど偽造された反省は、岡田市長にとって、もはや無縁のようです。ということは、第2のタゴ事件の土壌がちゃくちゃくと形成されていると言えるのではないでしょうか。これはタゴ事件の尻拭いをさせれている安中市民にとって、大変危険な兆候です。

■原告最終準備書面を読むと、フリマ中止をめぐる安中市の首長や組織としての問題点や課題が手に取るように分かります。法的根拠や解釈もきちんと理路整然と記載されており、これを読む限り、何が真実だったのかが容易に把握できます。しかし、未来塾は結局、勝訴できませんでした。

 争点がいかにはぐらかされ、歪められ、最初から判決有りきの内容構成になっているかは、この後の後に紹介する判決文で、おわかりいただけるものと思います。

■行政訴訟では大なり小なり、こうした論理の展開で住民敗訴の判決が出されます。今回は、録音記録という揺るがしがたい証拠が提出されたため、どのような展開をたどるのか関心がもたれましたが、群馬県の司法の出した結論は、案の定でした、

 それでも、これまで訴訟指揮をとってきた裁判長は、この酷い内容を朗読する勇気はなかったようです。当会は、このような正読に耐えない判決文だからこそ、代読した裁判官として松丸伸一郎をおいて他に存在し得なかったのだろうと分析しています。

【ひらく会情報部・最終ラウンドその3に続く】
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