フリマ中止を巡る未来塾側と安中市・岡田市長とのバトル・・・逆転劇となった東京高裁での攻防(その2)  安中フリマ中止騒動

■東京高裁から平成22年7月8日付で期日呼出状のオリジナルと控訴状の写しが郵送で安中市に届いたのは、同7月9日(金)と思われますが、それ以前に、東京高裁はFAXで期日通知書を控訴人の未来塾の弁護士と、被控訴人の安中市の顧問弁護士に送っていました。

 翌7月9日(金)に、安中市の顧問弁護士は、FAXで、東京高裁から期日通知書が7月8日に届いたことを安中市役所の秘書行政課に通知しました。

 上記を受けて、安中市秘書行政課広報広聴係は、翌週7月12日(月)に回議用紙を作成して、第1回口頭弁論の期日通知書と未来塾の訴訟状を回覧すべく起案し、係員・遠間、係長・反町、課長・佐俣、部長・鳥越らの稟議と、建設部長・大沢、教育部長・本田、都市計画課長・角井、体育課長・清水らの合議をとり、7月16日(金)に岡田市長の決裁をとったのでした。

■一方、フリマ中止問題が当行高裁に舞台を移すことが決まった為、安中市はさっそく顧問弁護士の渡辺明男氏に訴訟委任をすることになりました。平成22年7月13日(火)、同様に安中市秘書行政課広報広聴係が起案用紙を作成して、東京高裁における二審となる控訴審の訴訟代理人を渡辺明男氏とすることについて、係員・遠間、係長・反町、課長・佐俣、部長・鳥越らの稟議と、文書法規係長・吉田の確認をとり、同日7月13日に岡田市長の決裁をとって、渡辺弁護士と、その日農地に訴訟委任契約を結んだのでした。

 報酬額は契約書第2条にあるように、着手金20万円、成功報酬10万円となっています。なお、これには、東京高裁での口頭弁論などへの出席のための日当、交通費などは含まれておらず、別途支給となっているはずです。

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【訴訟委任状】
         訴訟委任状
                      平成22年7月  日
         住所
                  安中市
             委任者 安中市長 岡田義弘 ㊞
 私は、弁護士渡辺明男(事務所住所 〒370−0801 群馬県高崎市上並榎町1 4 0番地2)(電話番号027−363−1341 FAX番号027−361−4372)に、下記事件に関する下記事項を委任します。
               記
第1 事 件
 1 控 訴 人  松本立家、地域づくり団体未来塾
 2 裁 判 所  東京高等裁判所第5民事部
 3 事 件 名  損害賠償請求控訴事件
 4 事件番号  平成22年(ネ)第4137号
第2 委任事項
  上記事件の訴訟行為、訴えの取下げ、和解、請求の放棄、請求の認諾、調停、控訴、上告、上告受理の申立て、反訴の提起、弁済金物の受領、復代理人選任
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【訴訟委任契約書】
            訴訟委任契約書
 依頼者安中市を甲、受任弁護士渡辺明男を乙として、次のとおり、委任契約を締結する。
  (事件等の表示と受任の範囲)
第1条 甲は乙に対し下記事件又は法律事務(以下「本件事件等」という)の処理を委任し、乙はこれを受任する。
(1)事件等の表示
   事件名   損害賠償等請求控訴事件
   事件番号  平成22年(ネ)第4137号
   相手方   松本立家外1名
   裁判所   東京高等裁判所第5民事部
(2)受任範囲
   上記事件の訴訟行為、訴えの取下げ、和解、請求の放棄、請求の認諾、調停、控訴、
   上告、上告受理の申し立て、反訴の提起、弁済金物の受領、復代理人選任
  (報酬額)・
第2条 甲は乙に対し、次のとおり弁護士報酬を支払う。
  (1)委任時報酬(着手金)  金200,000円
  (2)解決時報酬(報酬謝金) 金1 0 0,000円
2 着手金の支払時期は、本契約締結後、乙からの請求に基づき一括払いするものとする。
3 報酬謝金の支払時期は、本件事件等の処理が終了したときとする。ただし、三審を受任するときは、報酬謝金の支払はしないで、別途協議で定める着手金を支払い、解決したときに、報酬謝金を支払う。
  (実費)
第3条 本件事件等に関する実費は、着手金に含まれるものとする。
  (乙の義務)
第4条 乙は善良な管理者の注意義務をもって、誠実に、本件事件等を処理しなければならない。
2 乙は、甲に対し、裁判所提出書類の事前同意、口頭弁論期日毎の報告、示談交渉ごとの報告の義務を負担する。
  (甲の義務違反による事件処理の中止等)
第5条 甲が弁護士報酬の支払いを遅滞したときは、乙は本件事件の処理に着手せず、又はその処理を中止することができる。
2 前項の場合には、乙は連々かに甲にその旨を通知しなければならない。
  (弁護士報酬の相殺等)
第6条 甲が弁護士報酬又は実費等を支払わないときは、乙は甲に対する金銭債務と相殺し、又は本件事件に関して保管中の書類その他のものを甲に引き渡さないことができる。
  (甲の解除権)
第7条 乙が本件委任契約後、通常予測される期間を超えてもまだ本件事件等の処理に着手しない場合は、甲は、催告の上、本委任契約を解除することができる。
2 前項の場合、乙は甲に対し、支払済の弁護士報酬を全額返還しなければならない。
  (甲の責任)
第8条 甲が正当な理由無く、本件委任を解除した場合は、乙は、甲に対し、本件契約で定めた弁護士報酬の全額を請求することができる。

 甲及び乙は、本委任契約の合意内容を十分理解したことを相互に確認し、その成立を証するため、本契約書を2通作成し、それぞれに保管するものとする。
平成22年7月13日
                甲(依頼者)
                群馬県安中市安中1丁目23番13号
                 安 中 市
                 代表者 安中市長 岡 田 義 弘 (公印)
                乙(受任弁護士)
                 群馬県高崎市上述榎町140番地2
                  渡辺法律事務所
                  弁護士 渡 辺 明 男 (角印)
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■こうして、平成22年9月6日の第1回口頭弁論に向けた両者のバトルが開始されたのでした。

【ひらく会情報部・この項つづく】

※参考資料
【控訴人未来塾・代表者の控訴理由書その2】
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第10 本件談話の各記載と―審原告らの社会的評価の低下
1 総論
 上記「第9」で述べたとおり,各最高裁判決の趣旨,「市の広報」という媒体の特殊性や「市長」という表現行為者の特殊性,本件の背景事情等を踏まえ,安中市民が本件談話を「読過」した場合の摘示事実と,それをもとにした社会的評価の低下の有無の判断とを峻別したうえで,本件談話「全体」の「印象」を基準とした場合に,本件談話が一審原告らの社会的評価を低下させるものであることは明らかである。
 本節では,本件談話の各記載部分についての摘示事実及び社会的評価の低下の有無の判断についての誤りを,個別に指摘する。
 なお,以下では,本件談話@からFまでを順に検討するのではなく,上記「第9」で指摘した順(A,F,D,B,E,C,@)に検討する。
2 本件談話A(意見交換会開始直後,特に一審原告松本が怒鳴ったとの点)
(1) 原判決の判示
 原判決は,「表現に穏当さを欠く部分が全くないとはいえないが,本件談話を全体として見ると,一般読者の普通の注意と読み方を基準として読めば,その場の緊迫した険悪な雰囲気を示したにすぎず,原告らが行政対象暴力に当たるような不当な態度をとったなどの事実を摘示しているものということはできない。したがって,原告未来塾の社会的評価を低下させるものということはできない」と判示する(15〜16頁)。すなわち,本件談話Aで摘示されている事実は「その場の緊迫した険悪な雰囲気」であるかのような判示となっている。
 そして,原判決は,上記のように結論付けた理由として,第一に,「被告市側の出席者が目を見て話をしていないと思われるような態度をとっていた場合に,原告未来塾側の出席者がこれについて真摯な態度に欠けるものとして不満を抱き,強い口調で指摘したとしても,そのことのみによって,行政対象暴力にあたるような不当な行為であるとの印象を一般読者に与えるということはできない」,第二に,「本件談話において,原告未来塾側の出席者の態度が具体的に指摘されているのは本件談話Aの部分のみであって,むしろ,前認定の本件談話によると,本件談話のほかの部分においては,被告市が原告未来塾に対して苦言を呈するなどした事実が記載されているにもかかわらず,これに対し,原告未未墾は平静に回答した事実が摘示されているということができる」などと述べる(15頁)。
(2) 摘示事実
ア 本件談話Aで摘示されている事実は,明らかに,「一審被告岡田を含む一審被告案穴下士官傾斜との話し合いにおいて,その冒頭から,市側が『すみませんが確認をさせていただきたいのですが・・・』と述べているところに,一審原告らが『目を見て話をしろ』と怒鳴り,市側が『静かに話をしましょう』と述べた事実」であって,真実性・真実相当性の主張・立証対象もこの事実である。
イ 原判決は「その場の緊迫した険悪な雰囲気」が満示事実であるかのように判示するが,これは,摘示事実が何かという判断と,社会的評価の低下の有無の判断とを峻別せずに混同したものであって,失当である。
 真実性・真実相当性の立証対象が「その場の緊迫した険悪な雰囲気」などという抽象的な事実でないことは,言うまでもない。
ウ 原判決は,「被告市側の出席者が目を見て話をしていないと思われるような態度をとっていた場合に,原告未来塾側の出席者がこれについて真摯な態度に欠けるものとして不満を抱き,強い口調で指摘したとしても,そのことのみによって,行政対象暴力にあたるような不当な行為であるとの印象を一般読者に与えるということはできない」と判示する。
 原判決は,あたかも,「一審被告市側の出席者が目を見ていないと思われるような態度をとっていたこと」「一審原告未来塾側の出席者がこれについて真摯な態度に欠けるものとして不満を抱いたこと」を摘示事実に実質的に含むかのようであり,要するに,「目を見て話をしていない者に対して不満を抱き,目を見て話をするべきだと強い口調で指摘すること自体は,おかしなことではない」と述べるようである。
 しかし,上記判示の理屈は,本件談話を「精読」した場合に解釈の一つとして成り立ちうるものではあっても,一般読者が「読過」した場合の事実の把握・評価とは,到底かけ離れたものである。
 仮に,真実通り,意見交換会開始後納15分ほど経過した時点で,一審被告岡田が体も顔も一審原告らの方向を向いていなかった事実と,一審原告松本が丁寧な口調で「市長さん,お話しをしているのは私ですから,できれば私のほうに向いていただけると,お答えもしやすいんですが」と述べた事実が,本件談話にそれぞれ正確に摘示されていたならば,上記判示内容も妥当しうるであろう(もっとも,実際の一審原告松本の発言は「強い口調」ではない)。
 しかしながら,本件談話には,話し合いの「冒頭」で市側が「すみませんが確認をさせていただきたいのですが・・・」と述べている最中に,一審原告らが「目を見て話をしろ」と命令口調で「怒鴫った」,と記載されているのである。さらに,その直後には一審被告側が「静かに話をしましょう」と冷静に諌めたかのように記載されているのである。
 「市の広報」という媒体において「市長」が記載した本件談話を「読過」した一般読者は,「一審被告市側の出席者が目を見ていないと思われるような態度をとって,一審原告未来塾側の出席者がこれについて真摯な態度に欠けるものとして不満を抱いた」という「印象」ではなく,「一審被告側が丁寧な口調で話し誠実な態度を取っていたのに,一審原告側が理不尽に威嚇的発言を行った」との「印象」を受けるのである。
(3) 社会的評価の低下の有無
 話し合いの席においては,出席者の発言は冷静かつ和やかになされることが通常であり,かつ,それが期待されることは言うまでもない。時に話し合いのテーマや意見の相違等により,話し合いの途中から雰囲気が険悪になることはあっても,冒頭から威嚇的な発言がなされることなどなく,まさに異常な出来事である。本件のように「意見交換」のために設定されていた場であればなおのこと,冒頭での威嚇的な発言は,「意見交換」に全く不要であり,むしろ有害であって,異常というほかない。それも,人口6万4000人余りの地方都市で,円滑な人間関係が大都市と比べても重視される地域性のもとで,その地方公共団体の長やその職員に対し,話し合いの冒頭から怒鳴ることなど,暴力団や政治標榜ゴロ等でなければあり得ない話である。
 一審原告未来塾は,地域づくり活動に関して,外部から高い評価を受けており,様々な賞を受賞してきた。授賞者は,自治体たる群馬県や安中市のほか,地元の有力新聞社である上毛新聞社をけじめ,群馬銀行環境財団,群馬県社会福祉協議会等,いずれも信頼性の非常に高い機関・団体である。また,一審原告松本個人も,群馬県から,群馬県総合表彰「地域づくり功労賞」を受賞している。これらの賞は,一審原告らの地域づくり活動の内容それ自体が評価されていることは当然のことながら,それのみならず,活動を遂行するにあたっての外部の各関係機関との協調性や誠実さなども,その評価の対象となっていることは自明である。仮に,ある団体の活動内容それ自体がどれほど評価できるものであったとしても,その遂行にあたって外部の各関係機関との間で協賛欧なく不誠実な態度をとるような独善的団体に対してまで,信頼性の高い団体が賞を与えることはあり得ない(そのようなことを行えば,賞を与える側の機関・団体が自身の信頼を低下させることとなってしまうであろう)。
 地域づくりで多数の表彰を受けている団体・個人が,フリーマーケット会場を提供してくれる市の長に対して,「目を見て詰をしろ」と「冒頭から怒鳴」るという威嚇的言動を行うことなど,一般市民にとってはまさしく信じがたいことである。そして,そのような団体や個人が,地域づくりに関して多数受賞するになおも値するなどと,安中市の一般市民が考えないであろうことは明らかである。
 そして,上記のとおり,「一審被告らが目を見ていないかの上うな態度をとっていた」との事実ではなく,「一審被告側が丁寧な口調で話し誠実な態度を敢っていたのに一審原告側が理不尽に威嚇的発言を行ったとの事実」が摘示されていることから,そのような一審原告らの社会的評価が低下することはなおのこと明らかである。
(4) 一審被告岡田自身が「信じられない」と述べていること
 前記「第3」で述べたとおり,一審被告岡田自身,冒頭から怒鳴ったり,市長を罵ったりする言動をとること族地域づくりに関して多数受賞する団体・役員としてとても信じられない旨,そして,一般市民も事実関係を聞けば同様に受け止めるであろうことを,自らの陳述書及び法廷における供述で認めている(乙17:2頁,一審被告岡田:20頁)。
 原判決は,この一審被告岡田の供述を敢えて無視しており,明らかに失当である。
(5) 冒頭から「緊迫した険悪な雰囲気」となること自体が異常であること
 原判決は,「その場の緊迫した険悪な雰囲気を示したにすぎない」などと述べるが,一般感覚から甚だ乖離した驚くべき判示というほかない。
 上述したとおり,そもそも,市の話し合いにおいて,冒頭から緊迫した険悪な雰囲気になること自体が,極めて異常なのである。地域づくり活動に関して多数受賞している団体・個人が,市長に対して「目を見て話をしろ」と冒頭から怒鳴った,という事実が,なにゆえに緊迫した険悪な雰囲気を示したに「すぎない」などと過小に評価されるのか,原判決は全く理解に苦しむ判示を行っている。
(6) 他の部分で「平静に回答した」ことを根拠とすることの誤り
ア 原判決は,「本件談話において,原告未来塾側の出席者の態度が具体的に指摘されているのは本件談話Aの部分のみであって,むしろ,前認定の本件談話によると,本件談話のほかの部分においては,被告市が原告未来塾に対して苦言を呈するなどした事実が記載されているにもかかわらず,これに対し,原告未来塾は平静に回答した事実が摘示されているということができる」などと述べる。
イ しかし,同判示内容は,本件談話を「精読」した場合に成り立ちうる解釈の一つにすぎない。同判示内容は,一般市民が本件談話「全体」を「読過」した場合に受ける「印象」とは甚だ乖離したものである。
(ア) 第1に,上述したとおり,そもそも地方公共団体の長に対して「目を見て話をしろ」と冒頭から怒鳴ること自体が異常なことである。
 原判決はあたか仏そのような威嚇行為が継続されてはじめて異常であるかの如き判示を行っているが,そのような感覚をもつ一般市民は皆無である。仮にそのような感覚をもつ一般市民がいたとしても,そのような特殊な感覚の者を基準として社会的評価の低下の有無を決することが失当であるのは言うまでもない。
(イ) 第2に,「その他の部分で平静に回答した」という認定・評価も全く失当である。
 例えば,震災時の募金(本件談話B)については,あたかも,一審原告らが不正行為を行い,市からの質問に対しても不自然な弁解を行ったかのように事実が摘示されており,スポーツセンター駐車場利用(本件談話C)についてもバ市との合意を知っているにもかかわらず合意を守らない団体・個人であるという印象を与えるための記載である。
 上述した平成15年最高裁判決のいうように 「全体の構成」と 「印象」を重視した場合,「その他の部分」の記載は,「平静に回答した」などという肯定的な印象を与えるようなものでは到底なく,逆に,不正行為を行ったり,不自然な弁解を行ったり,市との合意も守らないような個人・団体であるかのように鎬示するものであって,一審原告らの社会的評価を低下させるものである。
3 本件談話F(罵言雑言の件)
(1) 原判決の判示
 原判決は,「直接的には,被告市又は同市長である被告岡田の心構えを記載したものである。仮に,その表現自体から,被告らの心構えを超えて何らかの意図が読み取れるとしても,そのような意図は読者の主観に左右される多義的なものであって,一般読者の普通の注意と読み方を基準として,原告未来塾が本件意見交換会において被告らを責めたり罵ったりしたとの事実まで摘示したものということはできず,原告未来塾の社会的評価を低下させるものとはいえない」と判示する(17〜18頁)。
(2) 摘示事実
 本件談話Fは,単に一審被告岡田の心構えを摘示したにとどまらず,「一審原告らが一審被告らを責めたり罵ったりした事実」を摘示したものであることは明らかである。
 一審被告らは,本訴訟において,一審原告らが一審被告らを罵ったと繰り返し主張し(ただし実際にそのような事実が全くなかったことは,一審原告らが原審において立証したとおりである),それを前提に本件談話を作成・配布している。そして,一般市民も,一審原告らが一審被告らを責めたり罵ったりしていないのであればわざわざ一審被告岡田が「人に責められて人を責めず,罵られて罵らず」などと「心構え」を記載する必要はないこと,すなわち,一審原告らが一審被告らを責めたり罵ったりしたと「印象」として受け止めるのである。「市の広報」において「市長」が記載した表現は,一般市民にとって高度の信頼性を有し,たとえ心構えを説いたような形式をとったとしても,一般市民には,一審原告らが一審被告らを罵ったことが事実として受け止められる。
(3) 社会的評価の低下
 本件談話Fの摘示する「一審原告らが一審被告らを攻めたり罵ったりした事実」からすれば,本件談話A「目を見て話をしろ(冒頭から怒鳴る)」の記載と同様に,一審原告らの社会的評価を低下させるものであることは明らかである。
4 本件談話D(訴外有限会社サワ井商店の点)
(1) 原判決の判示
 原判決は,本件談話Dについて
 ・摘示事実 「 被告市の市役所北側の土地が売却される見込みになったことに件い,原告未来塾の構成員が,被告市に来庁して被告市が同土地を買収するよう勧めた事実 」
 ・社会的評価の低下の有無 「 (上記の)事実を摘示しているものにすぎず,その要求の内容や態様,原告未来塾の構成員の関与の目的などが摘示されているものではないから,上記摘示事実は原告未来塾の社会的評価を低下させるものではない 」
 と判示する(17頁)。
(2) 摘示事実
 本件談話Dは,「市が跡地を買収するよう3回来庁しています」と記載されているところ,原判決は「買収するよう勧めた」事実を鏑示したものと判示した。
 しかし,原判決は何故に一審原告らが「勧めた」事実を摘示したとするのか,その理由を全く述べていない。原判決は全く恣意的な事実認定を行ったという他ない。
 一般読者が本件談話を「読過」した場合に受ける「印象」は,「目を見て話をしろ(冒頭から怒鳴る)」との記載や,「3回来庁」との記載を合わせて読めば,買収を「勧めた」のではなく「繰り返し要求した」事実を摘示したものと解すべきである。
(3) 社会的評価の低下
 上記の通り,本件談話Dは,「一審原告未来塾の構成員が,一審被告安中市に来庁して一審被告安中市が同土地を買収するように繰り返し要求した事実」を摘示するものである。
 一般読者がこれを「読過」すれば,一審原告らがボランティア活動では なく営利目的活動(それも不動産売買取引によるもの)に従事し,しかも,市に対して不当要求を行う団体・個人のような「印象」を与えるものであり,一審原告らの社会的評価を低下させるものである。
 原判決は,要求の内容や態様,一審原告未来塾の構成員の関与の目的が摘示されていないことを理由に社会的評価が低下しないなどと述べる。しかし,フリーマーケット開催に関する意見交換会についての記事で敢えて土地買収の話が記載されていることや,「目を見て話をしろ(冒頭から怒鳴る)」など一審原告らの社会的評価の低下する内容が列挙されている中に記載されているという「全体の構成」からすれば,具体的な内容・態様・関与目的等が摘示されていなくても,一審原告らが不当要求を行う団体・個人であるかのような「印象」を与えるには十分である(仮に本件談話Dの摘示事実を,「勧めた」事実でもなく,「繰り返し要求した」事実でもなく,単に「3回来庁した」事実と解するとしても,この「全体の構成」からは一審原告らの社会的評価を低下させるものであることは明白である)。原判決の判示は失当というほかない。
5 本件談話B(参加費徴収・募金・市民からの苦情指摘の点)
(1) 原判決の判示
 原判決は,本件談話Bについて
 ・摘示事実
  「 原告未来塾が震災時に募金活動をしたとの事実 」(i)
  「 これについて安中市民が被告市に対して指摘したことがあるとの事実 」(ii)
  「 原告未来塾は被告市に対して募金活動について報告していなかったとの事実 」(iii)
 ・社会的評価の低下の有無
  (iとiiの事実について)
  「 原告未来塾に不利益なことではなく,何ら原告未来塾の社会的評価を低下させるものではない 」
  (iiiの事実について)
  「 本件談話には報告義務についての記載はなく,一般読者が原告未来塾は被告市に対し報告義務があったのにこれに反したと理解するとは解されないから,原告未来塾の社会的評価を低下させるものではない 」
 と判示する(16頁)。
(2) 摘示事実
 上記判示は,本件談話Bの摘示事実を,上記(i)〜(iii)のような価値中立的な客観的情報と捉える。
 しかし,これは「一般読者の通常の注意と読み方」を基準とした場合の事実ではない。原判決の認定は,まさに昭和31年最高裁判決が排斥した,「純客観的」事実を摘示事実と捉える考え方であり,失当である。
 「募金箱を持って回るのはおかしい。市はそういうことを知っているのか・・・。という指摘もあります。本当なのか伺います」との記載を一般市民が「読過」した場合,市が「本当なのか」と問いただしている以上,その前提として「フリーマーケットにおいて募金活動をすることが『おかしい』=不正行為である」(iv)との「印象」を受けるのであり,同事実も摘示事実に含まれる。「市の広報」において「市長」が記載しているという特殊性に鑑みれば,募金箱を持って回ることが市の条例・規則上問題があるものと一般市民が「印象」として受け止めるのである(実際,一審被告らは本法廷において,フリーマーケットにおける募金活動が不正行為である旨の主張を繰り返している)。
 また,「阪神大震災は12年前ですよね。12年前のことを市民が指摘するのですかね・・・」との記載を一般読者が「読過」した場合,その反語的表現からは,「市からの質問に対し,一審原告らが12年前の震災時の募金活動に関する回答を行い,市がその回答の正当性に疑念を示した」(v)との「印象」を受けることは明らかである。市の広報は,他の媒体と比べて高度の信頼性を有するがゆえに,主観的表現であれそのまま受け止められるのであり,市が一審原告らの回答の正当性に疑念を示したこともまた,摘示事実として重要である。
 そして,当然ながら,これら(iv(v)の事実も,真実性・真実相当性の判断対象に含まれる。
 さらに,上記判示では,摘示事実の(ii)で「安中市民が被告市に対して指摘したことがあるとの事実」としているが,本件談話Bには,参加費や募金活動に関して「市民から苦情や指摘があった」と記載されているにもかかわらず,恣意的に「苦情」の語を除外しており,失当である。
(3) 社会的評価の低下
 前項のとおり,本件談話Bの摘示している事実は,「一審原告らは震災時に募金活動をしていたが(i),フリーマーケットにおける募金活動は不正行為であり(iv),一審原告らは募金活動について安中市に報告しておらず(iii),この点について安中市民から安中市に苦情や指摘があったため(ii),市が一審原告らに質問したところ,一審原告らは12年前の震災時の募金活動に関する回答を行い,市がその回答の正当性に疑念を示した(v)」という事実である。
 同事実を,一般読者の基準で判断すれば,地域づくり活動で多数の表彰を受けている団体・個人であるにもかかわらず,不正行為を行い,その行為を市に隠匿し,市から質問をされても不自然な弁解を行ったかのように受け止められるものであり,一審原告らの社会的評価が低下することは明らかである。
(4) 原判決のいう「報告義務」について
ア 原判決は,「本件談話には報告義務についての記載はなく,一般読者が原告未来塾は被告市に対し報告義務があったのにこれに反したと理解するとは解されないから,原告未来塾の社会的評価を低下させるものではない」などと判示する(16頁)。
 しかし,これも,本件談話を「精読」した場合に成り立ちうる分析の一つではあって,一般読者が本件談話「全体」を「読過」して受ける「印象」ではない。
 本件談話には,報告義務があったとの記載はないが,他方で,報告義務がなかったとの記載もない。むしろ,上述したとおり,フリーマーケットにおいて募金活動を行うことがあたかも不正行為であるかのように摘示されていることと合わせて読み,そしてそれが市の広報で市長名義で摘示されていることからすれば,上記のような報告義務があったものと一般市民が受け止めることは明らかである。
イ また,原判決は,「仮に募金活動について事前に報告すべき義務があったのにそれに反していたとの事実を摘示したものとしても」との前置きのもと,「被告市は原告未来塾に対し物品の販売等が行われるフリーマーケットの開催については許可していたことが本件談話の記載からうかがわれるのであるから,これとは別に募金活動について報告しなかったという程度の軽微な手続違背により,原告未来塾の社会的評価が低下するとまで解することはできない」と判示する(16頁)。
 しかし,上記判示は全く理解に苦しむ。上記判示は,原判決が本件事案の本質を理解していないことを端的に示している。
 そもそも,この意見交換会は,一審被告岡田が参加勢の徴収を問題として会場の使用許可を出なかったことを発端としており,当時,このことが安中市民の重大な聞心事となっていたという背景事情が存していたのである(甲2号証の各新聞記事参照。また,本件談話の冒頭にも,「過日,新聞などにより報道された,市有施設でのフリーマーケット開催について,多くの皆さんから広報紙などで説明して欲しいという声が寄せられましたので」と記載されている)。
 したがって,一般市民が本件談話「全体」を「読過」する際には,「フリーマーケットの開催については許可されていたこと」よりも,「意見交換会前に会場の使用許可がなされなかった理由が何であったか」に注目するのが通常である。
 仮に万一,原判決がいうようにこれが「軽微な手続違背」であれば,一審被告らが敢えて市の広報に記載するものとは一般市民は受け止めないのは明らかであろう。市の広報に市長が記載している以上,それが市の条例・規則等に違反しているものと一般市民が受け止め,かつ,それが会場の使用許可のなされなかった重要な理由の一つと受け止める。上述したように,募金活動が不正行為であることの事実を摘示していること,その他本件談話全体を合わせて読めば,原判決のいうような「軽微な手続違背」等ではなく,一審原告らの社会的評価を低下させるものであることはあきらかである。
6 本件談話E(参加費及び寄付金の点)
(1) 原判決の判示
 原判決は,本件談話Eについて
 ・摘示事実 「 原告未来塾が参加者から参加費を徴収し,寄付金を募っているなどの事実 」
 ・社会的評価の低下の有無 「 その使途や目的について何ら摘示するものではない。そして,参加費の徴収や任意の寄付金の募集自体は一般的に不当と評価されるものではないから,上記摘示事実は何ら原告未来塾の社会的評価を低下させるものではない」
 と判示する(17頁)。
(2) 摘示事実
 上記判示は,本件談話Eの鏑示事実を,「一審原告未来塾が参加者から参加費を徴収し寄付金を募っているなどの事実」という価値中立的な客観的情報と捉える。
 しかし,これも「一般読者の通常の注意と読み方」を基準とした場合の事実ではない。原判決の認定は,まさに,昭和31年最高裁判決が排斥した,「純客観的」事実を摘示事実と捉える考え方である。そして,この判示も,原判決が本事件の本質を全く理解していないことを端的に示している。
 そもそも,この意見交換会は,一審被告岡田が参加費の徴収を問題として会場の使用許可を出なかったことを発端としており,当時,このことが安中市民の重大な関心事となっていたという背景事情が存していたのである(甲2号証の各新聞記事参照。また,本件談話の冒頭にも,「過日,新聞などにより報道された,市有施設でのフリーマーケット開催について,多くの皆さんから広報紙などで説明して欲しいという声が寄せられましたので」と記載されている)。
 その背景事情を前提として本件談話全体を読んだ場合,参加費に関して,徴収の事実だけが質問回答形式で記載されており,あたかも,一審被告らが,参加費の徴収の事実をそれまで知らず,意見交換会において初めて知らされたかのように記され,かつ,配付資料の記載の引用のみで,フリーマーケットに多額の経費を要すること,参加費を集めても収支は赤字であったこと等の一審原告らの説明が一切書かれていないままに,市の広報で市長が記載した本件談話の「全体」を「読過」すれば,参加費の徴収によって一審原告らに利益が生じているとの「印象」を受けるのは当然である。
 寄付金についても同様に,「活動のための寄付金を集めています」とだけ記載し,その目的として資料にも明記してある「公園建設,福祉向上,自然保護活動のため」の部分が意図的に省略されており,参加費の徴収の記載やその他本件談話「全体」と合わせて「読過」すれば,一審原告らが自らの利益のために寄付金を募っているとの「印象」を受ける。
 したがって,本件談話Eの摘示事実は,「一審原告未来塾が参加者から参加費を徴収して利益を上げ,また自らの利益のために寄付金を募っている事実」である。
(3) 社会的評価の低下
 参加費を徴収して利益を上げ,また,自らの利益のために寄付金を募っているとの事実を前提とすれば,ボランティア団体として高い評価を受けている一審原告らの社会的評価を低下させるものであることは明らかである。
7 本件談話C(スポーツセンター駐車場利用の点)
(1) 原判決の判示
 原判決は,本件談話Cについて
 ・摘示事実
  「 原告未来塾と被告市との間で,フリーマーケット開催時におけるスポーツセンターの駐車場使用について合意した事実 」
  「 被告市の市民から,被告市に対し,同駐車場をフリーマーケット開催時にその利用者に対して提供していることについて抗議があったとの事実 」
 ・社会的評価の低下の有無
  「 被告らは,本件談話において,原告未未墾執フリーマーケット参加者に対し,被告市との間で駐車場利用上の合意をした旨及びその内容を記載し合意内容を守るよう注意を促す資料を配付したとの事実を摘示しており,この事実からは,原告未来塾による駐車場利用の管理に向けた努力がうかがわれるのであるから,本件談話を全体として読めば,本件談話Cの摘示事実についても,原告未来墾の社会的評価を低下させるものではない」
 と判示する(17頁)。
(2) 摘示事実
 上記判示のいう鎬示事実も,本件談話を「一般読者の通常の注意と読み方」を基準とした場合の事実ではない。
 一般市民が本件談話を「読過」した場合,市の「スミワケを決めたことはご承知ですか」の問いに対して一審原告未未墾の「知っています」との回答に合わせ,本件談話の下部の資料の引用の記載で駐車料利用の点について「(明記されています)」とのコメントが付されていること,そして,市民から抗議や苦情が来て「困っている」と記載されていること,「市の広報」という媒体で「市長」という表現行為者が行った表現であり,主観的表現も含めて事実として受け止められること等からすると,本件談話Cは,「その合意を一審原告らが知っていること」及び「一審原告らがその合意を守らないこと」の各事実も摘示しているというべきである。
 したがって,本件談話Cの摘示している事実をまとめると,「一審原告らと市との間のスポーツセンター駐車場の使用方法について合意について,一審原告らはその合意を知っているにもかかわらず,一審原告らがその合意をまもらず,市民から市に抗議や苦情のあった事実」となる。
(3) 社会的評価の低下
 原判決は,「原告未来塾が,フリーマーケット参加者に対し,被告市との間で駐車場利用上の合意をした旨及びその内容を記載し合意内容を守るよう注意を促す資料を配付したとの事実」が摘示されているから,「原告未来塾による駐車場利用の管理に向けた努力がうかがわれる」ので,社会的評価が低下しない,などと判示する(17頁)。
 しかし,これこそ,本件談話を「精読」した場合の分析であり,昭和31年最高裁判決が否定した判断である。原判決の判示は,一般読者が「読過」した場合の「印象」から,甚だ乖離している。
 市の「スミワケを決めたことはご承知ですか」の問いに対して一審原告未来塾の「知っています」との回答や,「(明記されています)」との一審被告岡田のコメント等を合わせて読めば,資料を配付した事実は,一審原告らの努力を伺わせるための記載ではなく,むしろ,「知っているにもかかわらず合意を守らない」という印象を与えるための記載であることは明らかである。
 実際,一審原告らが具体的に努力していた内容(原審一審原告ら最終準備書面55頁)について本件談話に記載は一切ない。本件談話全体の印象と合わせて一般読者が「読過」した場合に,この記載から原判決のいうような「駐車場利用の管理に向けた努力がうかがわれる」ことはないのである。
8 本件談話@(一審被告安中市からの回答日と開催準備期間)
(1) 原判決の判示
 原判決は,本件談話@について
 ・摘示事実
  「 本件意見交換会開催の形式的概要並びに本件フリーマーケット開催予定日及び本件意見交換会から本件フリーマーケット開催予定日までの期間 」
 ・社会的評価の低下の有無
  「 原告未来塾が問題とする『44日間も』との部分については,せいぜい執筆者である被告岡田の主観によれば同期開は短いものではないと感じられる程度の感覚的な表現に過ぎず,何ら原告未来塾の社会的評価を低下させるものではない」
 と判示する(15頁)。
(2) 摘示事実
 上記判示は,本件談話@の摘示事実を,「フリーマーケットの開催予定日は10月28日,開催の許可から予定日までの期間は44日間」という価値中立的な客観的情報と捉える。
 しかし,これも「一般読者の通常の注意と読み方を基準とした場合の事実」ではない。原判決の認定は,まさに,昭和31年最高裁判決が排斥した「純客観的」事実を鏑示事実と捉える考え方であり,失当である。
 「誠意をもって許可」「44日間も」との文字情報を含む本件談話@を,本件談話全体の印象と合わせて,一般読者が「読過」し「印象」として受け止める事実は,「安中市が誠意を持って9月13日に許可を出し,開催日まで期間に十分な余裕があったにもかかわらず,一審原告らがフリーマーケットを開催しなかった」という事実である。そして,真実性・真実相当性の主張立証の対象もこの事実となる。
 原判決は,一審被告岡田の主観を表すもので感覚的表現に過ぎない,などと判示する。しかし,「市の広報」という媒体において「市長」という表現行為者が行った表現はレ一般市民にとって高度の信頼性を有し,市長の主観も含めて事実として受け止められるのであって,原判決は媒体等の特殊性を看過している。
(3) 社会的評価の低下の有無
 前項のとおり,本件談話@の摘示している事実は,「安中市が誠意を持って9月13日に許可を出し,開催日まで期間に十分な余裕があったにもかかわらず,一審原告らがフリーマーケットを開催しなかった」という事実である。
 そして,本件談話には,通常フリーマーケットの開催準備期間に3か月を要することまで摘示がない。そのようなことを知り得ない一般市民が,上記摘示事実に接すれば,開催準備期間が十分にあるのに一審原告らにやる気がないために間催しなかったかのように受け止められる。これは,長年にわたって地域づくり活動としてフリーマーケット開催に尽力してきた一審原告らの社会的評価を低下させるものである。
第11 社会的評価の低下・小括
1 以上「第2」ないし「第10」で詳述したとおり,当の表現行為者である一審被告岡田自身が,本件談話によって一審原告らの社会的評価が低下することを認めているにもかかわらず,原判決はこの陳述・供述を看過し,また,原判決は,社会的評価の低下の有無の判断に際して「客観的」に「精読」するのではなく「読過」した「印象」を重視すべきであるのにこれに反し,「全体の印象」も重視せず,「市の広報」という媒体の特殊性や「市長」という表現行為者の特殊性が考慮されておらず,背景事情を考慮せずに表面上の記載のみで判断し,さらに,摘示事実と社会的評価の低下の峻別を行わない,などの,多数の誤りを犯し,本件談話が一審原告らの社会的評価を低下させるものでないなどという非常識な判示を行った。
 本件談話を,一般の読者の通常の注意と読み方を基準とした場合(すなわち「全体」を「読過」した「印象」から社会的評価の低下の有無を判断した場合),一審原告らの社会的評価が低下するものであることは,「第9」にまとめて述べた通りである。
2 実際,本件談話によって,一審原告らの社会的評価は低下した。
 一審原告松本は,「談話」を初めて見たときに
「 私は自分たちで一生懸命やってきたもんですから,そういった私たちのその信用とか信頼というのが,これで打ち崩されたというようなすごい衝撃を受けました」
 と述べ(一審原告松本:8頁),さらに実際に社会的評価が低下したことについて,次のように述べている(甲50:23頁)。
「 私は,この記事が掲載されて以降,周囲の人から『いつもニコニコしているけれど,あんな人だとは思わなかった』『松本さん,不動産業もやっているんだって?』と言われたりしました。『2000円とってんだから金儲けと一緒だ』『露天商と同じだ,公共の施設を使うな』『ボランティアだったらゴミでも拾ってろ』等,『談話』の内容を鵜呑みにした誤解に基づく抗議や,『悪い未来塾はぶっつぶしてやる』と脅しのような電話も受けました。そして,いつも挨拶等声をかけてくれる人が私に声を掛けなくなるなど,私に対する態度の変化を感じました。2年が経とうとしている今でさえ,『やっぱり金儲けしているから会場を貸してもらえないんだよね』などとも言われています。『役所のお知らせ版だから間違いないよね』と,市の広報を信頼し,事実と違う内容を信じてしまっている人もいます。」
 一審原告未来塾メンバーや,フリーマーケットにボランティアスタッフも,「談話」によってその社会的評価が低下させられている。実際に学校のPTA会長となるにあたって,一審原告未来塾のメンバーであることを理由に断られる問題が生じたり(一審原告松本:20頁),それまで,学校と連携し,ボランティアスタッフを務めた児童・生徒を学校が高く評価してきたが,「談話」の一件後,それも行われなくなったのである(一審原告松本:20頁)。
3 以上のとおりであり,一審原告らの社会的評価の低下を認めなかった原判決は全く失当であって,取り消しを免れない。
V 名誉毀損を認めなかったことの誤りA−その余の論点−
第12 一審原告松本個人の社会的評価の低下を認めなかったことの誤り
1 原判決の判示
 原判決は,一審原告松本個人の名誉毀損の成否について,「本件談話は原告未来塾の社会的評価を毀損するものではないことに加え,本件談話には,原告松本の名前の記載がなく,原告松本個人を特定する事実の摘示がなされていないことからすれば,本件談話は原告松本の社会的評価を低下させたものであるということは到底できない」旨判示する(18頁)。
2 最高裁判例等他の多数の判決の判示と相反すること
(1) しかしながら,上記の判示は,最高裁判例等,他の多数の判決の判示と相反している。
(2) ある者(甲)に対する言及が他の者(乙)の名誉を毀損すると認められる判例について,東京高裁平成6年9月7日判決(判例時報1517号40頁),東京地裁平成11年6月22日判決(判例時報1691号91頁),東京地裁平成13年10月22日判決(判例時報1793号10 3頁),東京地裁平成15年7月25日判決(判例時報1994号69頁),東京地裁平成18年11月7日判決(判例時報1994号69頁)等多数存している。
 また,実名が記されていない場合でも名誉毀損が認定された判決として東京地裁平成18年9月28目判決(判例タイムズ1250号228頁)等が存することは,原審一審原告最終準備書面103頁以降に詳述したとおりである。
(3) 原判決自身が名誉毀損の成否の判断基準として引用している最高裁昭和31年7月20日第二小法廷判決(民集10巻8号1059頁)の事実(いわゆる「三多摩のシャンハイ」事件)は,すでに詳述したとおり,新聞記事中には自治会会員の個人名は一切記載されていない。
 しかし,判決は,自治会のみならず,自治会会員全員に対する名誉毀損の成立も認め,謝罪記事の掲載の請求を認容しているのである(原審:東京高判昭和29年5月11日下民集5巻5号681頁)(上告審ではこの点は争点となっていない)。
 五十嵐清「人格権法概説」36頁も,「集団が比較的小さく,かつ集団員が特定しているときには,このような集団に対する誹諧により,集団員に対する名誉毀損の成立する場合かおる」として,上記昭和31年最高裁判決の原審判決を引用している。
(4) また,上述した平成15年最高裁判決(所沢ダイオキシン事件)の事案において,原告らの請求を棄却した原々審・原審とも,野菜生産農家個々人の名誉毀損該当性は認めている(真実性の抗弁を認めて請求は棄却したが,真実性の抗弁の認定を最高裁が覆して名誉毀損が認められる方向に破棄差戻ししたことは,上述したとおりである)。
 同事件の第一審判決づさいたま地裁平成13年5月15日判決・判例タイムズ1063号277頁)は,
「 被告朝日放送は,本件放送の内容は原告らが栽培している個々の農作物がダイオキシン類に汚染されていることを摘示するものではないから,原告ら各自の社会的信用や評価を低下させるものではなくに原告ら各自に対する名誉・信用毀損行為には該当しないと主張するが,不法行為としての名誉毀損が成立するための要件としては,本件放送のように所沢市内において野菜を生産する農家といった程度に相手方が特定されていれば十分である。したがって,本件放送は,原告ら個々人の名誉を毀損したものといえる。 」
 と判示しており,控訴審でも間判示が維持されている(上告審ではこの点は争点となっていない)。
(5) 以上のとおりであり,原判決のいうような,個人名が記載されていないから個人の名誉毀損が成立しない,という判示は,最高裁判決も含む多数の判決と相反するものであり,その誤りには甚だしいものがあると言わねばならない。
3 本件記事は新聞報道を前提としていること
(1) 一審被告岡田が本件談話の冒頭で下記の通り記載しているとおり(下線一審原告ら訴訟代理人),当該記事は新聞報道を前提としたものであった。
「 過日,新聞などにより報道された,市有施設でのマーケットの開催について,多くの皆さんから広報紙などで説明して欲しいという声が寄せられましたので…」
(2) そして,実際の新聞報道記事を見れば,例えば平成19年10月20日朝日新聞記事(甲2の1)においては,
「 中止になったのは,市民有志でつくる『地域づくり団体 未来塾』(松本立家代表)主催の第32回『フリーマーケットinあんなか』。 」
「 松本代表らは9月10日に,岡田義弘市長ら市幹部と話し合った。 」
と報じられている。すなわち,一審原告未来塾の代表者が一審原告松本であること,また,一審原告松本が平成19年9月10日の意見交換会に出席していたことは,一般読者らにも明らかとなっていたのである。
 このほかにも,一審原告未来塾代表が一審原告松本であることや,本件フリーマーケット中止に聞する一審原告松本個人のコメント等は,新聞各社・テレビ報道などによって報じられていた。
(3) 住民のごみ搬入阻止活動について市の広報に名誉毀損の内容を記載されたとして住民が栃木県大田原市を提訴した事実につき,東京高裁平成21年7月30日判決(LLI登載)は,市の広報に記載されている「政治的意図を特った特定の者」「地元一部過激住民」「地元の一部過激な住民」「一部扇動者」と称すべき相手が,一般的な大田原市民において当該住民らであると具体的に想起できなかったものとして請求を棄却しているが,その理由中で,「既に本件阻止活動に関わった者として被控訴人らの氏名が具体的に報道されるなどして,一般の控訴人市民の間に上記のいずれかの認識が広まっていたかどうかについては,これを認めるに足りる的確な証拠はない」と判示している。
 逆に本件の場合には,本件談話で「未来塾」との固有名詞が記載されているうえ,上記のとおり,本件談話が一審原告松本の固有名詞の記載された新聞報道等を前提としていることから,この東京高裁判決の判示からしても,一審原告松本に対する名誉毀損が成立するというべきである。
(4) よって,一審被告の本件談話における事実摘示は,団体たる一審原告未来塾団体に対してのみならず,同時に,その代表たる一審原告松木にも向けられていたものであり,一般読者の普通の注意と読み方を基準として見ても,本件談話は,一審原告松本個人の社会的評価も低下させるものである。
4 実際に一審原告松本の名誉が毀損されていること
 一審原告松本は,長年にわたって一審原告未来塾の代表を務め,地域のためのボランティア活動を継続しており,平成16年5月3日には群馬県から群馬県総合表彰「地域づくり功労賞」を受賞するなどしていたところ,当該記事掲載により,それまで築き上げてきた社会的評価を低下させられ,実際にも,一審原告松本が周囲の者から「いつもニコニコしているけれど,あんな人だとは思わなかった」「松本さん,不動産業もやっているんだって?」と言われたり,いつも挨拶等声を掛けてくれる人が一審原告松本に声を掛けなくなったりした(甲50:23頁)。
 一審原告松本は,かかる精神的な苦痛によって体調を崩し,ストレス性の動機や不整脈を抑える薬も飲むようになった(甲50:24頁,一審原告松本:20頁)。
5 まとめ
 以上のとおり,一審原告松本の名誉毀損を否定した原判決の判断は,最高裁判決の事例とも相反し,また,本件談話発行以前の経過や,実際に一審原告松本個人の社会的評価が低下させられていること等を看過したものであり,失当である。
第13 真実性・真実相当性の判断を行わなかったことの誤り
1 総論
 本件談話について,「摘示された事実が真実であること」(真実性)の要件を満たさないことは,原審一審原告ら最終準備書面「第9」(40頁以下)において詳述した通りである。
 また,一審被告らに,「行為者において真実と信ずるについて相当の理由がある」(真実相当性)と評価しえないことも,同「第17」「3」(106頁以下)において詳述した通りである。
2 各摘示事実について真実性のないこと
(1) 本件談話A
 本件談話Aは,「一審被告岡田を含む一審被告安中市関係者との話し合いにおいて,その冒頭から,市側が『すみませんが確認をさせていただきたいのですが・・・』と述べているところに,一審原告らが『目を見て話をしろ』と怒鳴り,市側が『静かに話をしましょう』と述べた事実」を摘示するものである。
 これが事実に反すること,すなわち,実際には,意見交換会開始後約15分経過した頃に一審原告松本が「市長さん,お話をしているのは私ですから,できれば私のほうに向いていただけると,お答えもしやすいんですが」と程々かな口調で指摘したものであること,その一審原告松本の発言が市側の「すみませんが確認をさせていただきたいのですが・・・」という発言の後ではなかったこと,市側が「静かに話をしましょう」と述べた事実のないことは,ICレコーダーの録音記録(甲39,甲40)から明らかである(原審における一審原告ら最終準備書面(以下単に「最終準備書面」という)44頁ないし48頁参照)。
(2) 本件談話F
 本件談話Fは,「一審原告らが一審被告らを責めたり罵ったりしか事実」を摘示したものである。
 これが事実に反すること,すなわち,一審原告らが一審被告らに対し,一審被告らの表現にいう「罵言雑言」を浴びせた事実などないことは,ICレコーダーの録音記録(甲39,甲40)から明らかである(最終準備書面59頁ないし60頁参照)。
(3) 本件談話D
 本件談話Dは,「一審原告未来塾の構成員が,一審被告安中市に来庁して一審被告安中市が同土地を買収するよう繰り返し要求した事実」を摘示したものである。
 これが事実に反すること,すなわち,一審原告未来塾は無関係であるうえ,買収を「繰り返し要求した」ような事実もないことは,一審原告松本の陳述書(甲50:18頁)や供述(一審原告松本16頁)から明らかである(最終準備書面58頁参照)。
(4) 本件談話B
 本件談話Bは,「一審原告らは震災時に募金活動をしていたが,フリーマーケットにおける募金活動は不正行為であり,一審原告らは募金活動について安中市に報告しておらず,この点について安中市民から安中市に苦情や指摘があったため,市が一審原告らに質問したところ,一審原告らは12年前の震災時の募金活動に関する回答を行い,市がその回答の正当性に疑念を示した事実」を摘示したものである。
 これが事実に反すること,すなわち,フリーマーケットにおける募金活動か不正行為ではないことは最終準備書面88頁に安中市に募金活動に苦情や指摘のあった事実が一審被告らから立証されていないことは最終準備書面54頁に,一審原告らが阪神大震災のみならず新潟の震災の募金活動を行っていたり,別グループが主体となって募金活動をしていた旨を意見交換会で説明していること,及び,市が一審原告らの回答の正当性に疑念を示したのではなく,むしろ「地震に関する寄付はわかりました」と述べて募金に関するやりとりが終了したことは最終準備書面50真に,それぞれ述べた通りである。
(5) 本件談話E
 本件談話Eは,「一審原告未来塾が参加者から参加費を徴収して利益を上げ,また自らの利益のために寄付金を募っている事実」を摘示したものである。
 これが事実に反すること,すなわち,フリーマーケットでは必要最低限の参加費を集めても収支は赤字であることや,必要最低限の参加費を集めることはボランティア活動としても何らの問題のないことは,最終準備書面21頁ないし24頁に述べた通りである。また,フリーマーケットにおける寄付金が「公回建設,福祉向上,自然保護活動のため」のものであり,一審原告らの利益のためのものでないことは,説明会資料(甲7)から明らかである。
(6) 本件談話C
 本件談話Cは,「一審原告らと市との開のスポーツセンター駐車場の使用方法について合意について,一審原告らはその合意を知っているにもかかわらず,一審原告らがその合意を守らず,市民から市に抗議や苦情のあった事実」を摘示したものである。
 これが事実に反すること,すなわち,一審原告らが警備員やシルバー人材センターなどによって人員を配置し,体育館利用者の妨げとならないよう努力をし現場ではスムーズであったことや,市民から市に抗議や苦情のなかったこと(このことは長澤建設部長も認めている)は,最終準備書面54頁ないし58頁に述べた通りである。
(7) 本件談話@
 本件談話@は,「安中市が誠意を持って9月13日に許可を出し,開催日まで期間に十分な余裕があったにもかかわらず,一審原告らがフリーマーケットを開催しなかったという事実」を摘示したものである。
 これが事実に反すること,すなわち,一審被告安中市より開場使用許可が伝えられたのが9月14日であり,開催準備期間に通常3か月を要するものであるのに,一審被告岡目が1週間では回答することが無理であると述べたために開催を断念せざるを得なかったことは,最終準備書面41頁ないし44頁に述べた通りである。
3 一審被告らの主張の虚偽性・悪質性を看過した原判決の誤り
 上述したとおり,一審被告岡田の作成した本件談話には,一審原告らが「目を見て話をしろ」と冒頭から怒鳴ったなどの記載を姑めとする,真実に反した記述が多数に及び,また,意見交換台の話し合いの内容や関係資料を恣意的にとりまとめられ,さらには,フリーマーケットと無関係かつ誤った内容が記載されている。特に,一審原告らがICレコーダーで録音していた記録と照らし合わせれば,本件談話の記載内容がいかに事実に反しているかは一目瞭然である(甲39,甲40)。
 ところが,一審被告らは,本件談話の記載内容が真実であるなどと主張し,ICレコーダーの録音記録が編集されているなどと主張して,その主張に沿った信用性に欠く鑑定書(丙22)を提出しただけでなく,明らかに後日作成された虚偽の「要点筆記」(丙17)を真実性の立証のためと称して平然と法廷に提出した。
 それにもかかわらず,原判決は,驚くべきことに,本件談話に記載された内容が真実であるか否かについて全く判断を示さなかった。原判決は,地方自治体の長が地方行政運営に関し市の広報で記載した内容の虚偽性から目を逸らしただけでなく,本訴訟における一審被告らの悪質な訴訟態度からも目を逸らしたのである。
 上記の通り,名誉毀損を請求原因とした場合に本件談話が一審原告ら社会的評価を低下させることは明らかであり,抗弁事実である真実性について裁判所が判断を行わなければならない。また同時に,本件談話の記載内容が虚偽であることは,後述する人格権侵害の請求原因事実でもあり,内容が真実か否かの判断は,より一層,判決において避けられないのである。
 判決において真実性についての判断が全くなされなかった原判決は,裁判所としての職責を放棄・僻怠したものと言わざるを得ず,取消しを免れない。
W 名誉感情侵害・人格権侵害を認めなかったことの誤り
第14 名誉感情の侵害を認めなかったことの誤り
1 総論
 原判決は,「本件談話は,前記1及び2でそれぞれ検討したことに照らし,社会通念上許される表現態様であって原告らを侮辱したものでないことは明らかであるから,被告らが原告らの名誉感情を違法に侵害したということはできない」と判示する(18頁)。
 しかしながら,本件「談話」の内容が,一審原告松本の社会的評価のみならず‥これまで地域づくり活動に尽力してきたことについての名誉感情を侵害することも,また当然である。
2 「社会通念上許される表現態様」ではない
 原判決は,本件談話が「社会通念上許される表現態様である」とするが,失当である。
 原判決自身,「目を見て話をしろ(冒頭から怒鳴る)」との記載については「表現に穏当さを欠く部分が全くないとはいえない」と認めるところである。
 ましてや,そのような「穏当さを欠く」表現が,地方公共団体の長から,市の広報という媒体において記載されることが,「社会通念上許される」はずがない。ましてや,「目を見て話をしろ(冒頭から怒鳴る)」などの記載内容が真実ではないことも併せて考えれば,本件談話が「社会通念上許される表現態様」でないことはより一層明白である。
 そもそも,本件談話の各摘示は,地域づくり活動に尽力してきた一審原告松本にとって,受忍限度を超える侮辱行為そのものである。
3 名誉感情の侵害は「侮辱」に限られない
 また,原判決は,本件談話が一審原告らを「侮辱」したのではない,として名誉感情の侵害を否定するが,名誉感情侵害行為は侮辱行為に限られるわけではなく,侮辱でなくとも,被害者の名誉感情を侵害する場合には損害賠償責任が発生する。
 本件は「社会通念上許される表現態様」などでは到底なく,受忍限度を超える侮辱行為そのものであるが,仮に万一侮辱でないと解したとしても,フリーマーケットと意見交換会に関して虚偽の内容を記載された一審原告松本の名誉感情を侵害するものであることは明白である。
 なお,侮辱以外の場合にも名誉感情侵害が認定された例として,下記の各判決が存している。
(1) 青森地裁平成7年3月28日判決(判例時報1546号88頁)
 六ヶ所村の核燃料サイクル施設の建設に反対する者(原告)が漁をしている姿を撮影した写真が,核燃料サイクルのPR詰の表紙に使用された事案につき,意に反して核燃料サイクルのPR詰に写真が掲載されたことにより原告の名誉感情を侵害したと認定した。
(2) 「石に泳ぐ魚」事件の各判決(東京地裁平成11年6月22日・判例時報1691号91頁,東京高裁平成13年2月15日・判例時報1741号68頁,最高裁平成14年9月24日・判例時報1802号60頁)
 顔面に腫瘍を持った者が,その容貌を戯曲の形で描写された事案につき,その表現がその者の名誉感情を侵害すると認定した。
(3) 浦和地裁平成3年10月2日(判例時報1417号103頁)
 隣人を,何らの合理的根拠なく精神保健法上の「精神障害者又はその疑いのある者」にあたるとして診察及び保護の申請をした行為につき,当該隣人の名誉感情を侵害するものとした。
第15 人格権の侵害を認めなかったことの誤り
1 原判決の判示と理由の判断の遺漏
 原判決は,何らの理由を示すことなく,「原告らが主張するそのほかの人格権侵害についても,これを認めるに足りない」などと判示する。驚くべき判断の遺漏であり,全く失当というほかない。
 原判決の判示では,名誉毀損の有無と人格権侵害の有無が全く同一であるかのようである。しかし,名誉権は人格権の一内容にすぎず,名誉権の侵害の有無の判断だけでは,他の人格権の侵害の有無は決せられないのである。
 したがって,一審原告らの主張している各人格権が一般論に肯定されるか否か,さらに,本件における具体的あてはめとして,その各人格権の侵害の有無及び程度一特に本件談話に記載された内容が誤っているか否かの判断を行わなければならない。 しかるに,原判決は,かかる判断を一切行わなかったのである。
 憲法の規定にも重大な関係のある本争点について,判決において何らの判断も行わず,わずか1行しか判示しなかった原審は,裁判所としての職責を放棄・僻怠したものと言わざるを得ない。
2 自己情報コントロール権の侵害
(1) 人格権としてのプライバシーの権利に関する各最高裁判決
 人格権の内容には,名誉権の他にも,氏名を正確に呼称される権利(最高裁昭和63年2月16日民集42巻2号27頁),自己の容貌・姿態をみだりに撮影・公表されない権利(最高裁昭和44年12月24日刑集23巻12号1625頁,最高裁平成17年11月10日民集59巻9号2428頁),前科等をみだりに公開されない権利(最高裁昭和56年4月14日民集35巻3号620頁,最高裁平成6年2月8日民集48巻2号149頁),氏名・住所・電話番号等を他者にみだりに開示されない権利(最高裁平成15年9月12日民衆57巻8号973頁),個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない権利(最高裁平成20年3月6日民集3号665頁)等が含まれる。
(2) 自己情報コントロール権
 最高裁の認める上記各権利が人格権として保護されるのは,氏名や容貌・姿態,その他各種個人情報が,個人の重要な身上,生き方,人格形成と強く結びついており,それらの尊重・保護が,個人の人格的生存に必要不可欠であるが故である(憲法13条)。
 上記の各最高裁判例にみる各権利は,消極的権利としての性格の強い「ひとりで放っておいてもらう権利」という古典的なプライバシー概念から出発しているものの,現在では,プライバシー概念について,より積極的な「自己に関する情報をコントロールする権利」を認める方向に,判例・学説とも変化してきている(芦部信喜「憲法学U人権総論」)。
 個人の人格的生存のためには,「ひとりで放っておいてもらう」ことが保障されるだけでは不十分であり,自己について正確な情報を伝達されることや,誤った自己情報がみだりに流布されないことが保障されて,はじめて人格的生存が全うされるのである。
 そして,その「自己情報」が,純粋に私生活上の情報である場合はもちろんのこと;その情報が,自己の重要な身上,生き方,人格形成と強く結びついた活動に関する情報であれば,より一層,正確な情報が伝達され,また,誤った情報がみだりに流布されないことが必要となる。
 したがって,「自己の重要な身上,生き方,人格形成と強く結びついた活動に関して,正確に周知され,ないしは,誤った情報をみだりに流出されない権利」もまた,人格権の一内容として,不法行為法上の保護を受けるべきことは明白である。
(3) 本件におけるあてはめ
 これを本件について見るに一審原告松本は,長年にわたって一審原告未来塾の代表を務め,地域のためのボランティア活動を継続し,群馬県から群馬県総合表彰「地域づくり功労賞」を受賞するなどしており,本件フリーマーケットを含めた地域づくり活動は,同人の重要な身上,生き方,人格形成と強く結びついた活動である。
 また,一審原告未来塾についても,本件フリーマーケットに代表される地域づくり活動自体が,その重要な設立目的である(甲29。なお,自然人でなく団体であっても人格権が認められることは,団体・法人の名誉が保護の対象となっていることからも論を俟たない)。
 そして,一審被告らが,その地方公共団体の広報紙という,公的かつ影響力の大きい媒体を用いて,一審原告らが「目を見て話をしろ」と冒頭から怒鳴ったなどの記載を始めとして事実関係を歪めた記事を,安中市全戸に配布したため,一審原告らの人格的生存・存立基盤である地域づくり活動に関して誤った情報が流布されたのである。
 本件意見交換会は,北関東最大級のフリーマーケットに関するものであり,この会場使用許可が市から下りなかったことについて報道もなされていた状況であったから,安中市民にとっては関心の高い情報である。このフリーマーケットや意見交換会に関して事実と異なった情報が開示又は公表されるときは,一審原告らが行う活動の正当性を疑わせることになりかねないから,この点について誤った情報を公表されることによる一審原告らの法的利益の侵害は甚だしい。
 他方で,一審被告らが本件談話を掲載するにあたり,議事録等も作成せず(「要点筆記」が虚偽のものであることは原審一審原告最終準備書面で明らかにした通りである),その他何らの裏付けもとらずに作成・発行しただけでなく,「目を見て話をしろ(冒頭から怒鳴る)」など本件談話の
内容が事実に反することからすれば,一審被告らは,一審原告らを既めることを目的として本件談話を作成・発行したことは明らかである。そして,フリーマーケットに関する情報が安中市民の関心事であったとはいえ,真実に反する情報を流布させることが,読者の知る権利に資するものではないことは明らかである。
 したがって,一審被告らによる本件談話は,一審原告らの「自己の重要な身上,生き方,人格形成と強く結びついた活動に関して,正確に周知され,ないしは,誤った情報をみだりに流布されない権利」を侵害するものである。
(4) 東京高裁平成21年5月13日判決
 この点,東京高裁平成21年5月13日判決(乙13)も,以下の通り述べて,上記の自己情報コントロール権を実質的に認める判示を行った。
「 人は,個人の私生活上の自由の―つとして,個人に関する情報をみだりに第E者に開示又は公表されない自由を有し(最高裁平成20年3月6日第一小法廷判決・民集62巻3号665頁),これをみだりに開示又は公表されないことについて,不法行為上の保護を受け得る人格的な利益を有すると解することができる。そして,当該個人に関する情報として真実と異なる情報が開示又は公表された場合には,その受領者は,特段の事情がない限り,それを当該個人に関する真実の情報として認識することになるから,人は,自らの個人に関する誤った情報をみだりに開示又は公表されないことについても,不法行為法上の保護を受けうる人格的な利益を有するものということができる。」
 そして,個人に関する誤った情報が「みだりに」開示又は公表された場合に不法行為を構成するとし,その判断要素として,「当該情報の内容,開示・公表の目的,態様,範囲,当該個人の立場等」に照らして判断する,とした。
 当該事案は,テレビ出演している弁護士のダイエット情報に関して,週刊誌に虚偽の記事を掲載されたために損害賠償及び前号罪記事の掲載を求めた事案であり,上記東京高裁は,上記のとおり判示したうえで,人格権侵害による不法行為を認定したものである(なお,同判決は,名誉毀損については成立を否定している)。
 一方において,個人のダイエット情報が週刊誌に誤って流布された場合に人格権の侵害が認められながら,他方において,個人のダイエット情報以上に人格的生存・存立基盤に関わるものというべき,一審原告らの地域づくり活動に関する情報が,地方公共団体の広報紙に市長名で誤った情報が流布された場合に,人格権の侵害が認められないのでは,あまりに不均衡と言わざるを得ない。
3 重要な身上,生き方,人格形成と強<結びついた活動を平穏に行うことを妨げられない権利の侵害
(1) 上述した自己情報コントロール権のみならず,私生活の平穏(最高裁平成元年12月21日民集第43巻12号2252頁)や,内心の静穏な感情を害されない利益(最高裁平成3年4月26日民集45巻4号653頁)も法的保護の対象となっていることに鑑みると,「自己の重要な身上,生き方,人格形成と強く結びついた活動を平穏に行うことを妨げられない利益」もまた,人格権の一内容として,不法行為法上の保護を受けるというべきである。
(2) これを本件について見るに,その記事によってー審原告ら自身が心理的に抑圧され多大な精神的苦痛を披っただけでなく,周囲からも,一審原告らがあたかも私利私欲のためにフリーマーケットに関し不正な活動に従事し,また,話し合いに際しても不誠実な態度を示す者・団体であるかのように誤解されて,謂われのない非難を受けるなどし,フリーマーケットという地域づくり活動を,従前のように平穏に行うことが妨げられたのである(一審原告松本:20頁)。
(3) したがって,一審被告らによる本件談話は,一審原告らの「自己の重要な身上,生き方,人格形成と強く結びついた活動を平穏に行うことを妨げられない利益」をも侵害するものである。
**********その3につづく
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