2012/2/29  20:10

AIJ投資顧問会社2100億円ネコババ問題と泣きっ面にハチの長野県建設業厚生年金基金が教えるもの  他の自治体等の横領事件とタゴ51億円事件

■AIJ投資顧問株式会社という耳慣れない会社が、多数の顧客から約2100億円の企業年金資産の運用を委託されて、その大半が消失したという衝撃的なニュースが、2月24日以降、日本中に飛び交っています。

 多分、同業他社からのタレ込み情報が発端と思われますが、証券取引等監視委員会が今年1月下旬から検査に入り、2月17日までに消失の事実が判明しました。詳しい消失額や原因は依然調査中ということですが、年金基金の引き出しによる混乱を避ける為に、金融庁が監視委員会による行政処分勧告を待たずに、2月24日朝、直ちにAIJに対して金融商品取引法に基づく業務停止命令を出したものです。

 この件で、自見庄三郎金融担当相は2月24日の閣議後の記者会見で、AIJから「運用状況を投資家に説明できない状況になっている」との報告を2月23日の夕方に受けたことを明らかにしました。

 企業年金は運用難に直面しており、2008年秋のリーマン・ショック時の株価急落で被った多額の損失を挽回すべく、高利回り運用をうたったAIJに年金資産を委ねたところがたくさんあるようです。AIJは2008年の金融危機時も「安定した収益をあげていた」などと年金基金に説明していたからです。このため、金融庁は、同社が顧客にこうした実態を隠していたとして、業務停止の処分を行ったとみられます。

→AIJ投資顧問会社の第22期事業報告書(2011年3月28日提出)http://www.aim-ij.com/20120224-22rep.pdf
(4ページ目の「(20)投資一任契約に係る業務の状況 @契約件数等」の注書きに「※国内の運用資産総額の殆どは、当社と投資委任契約を締結する海外管理会社が設定する外国籍私募投資信託を対象としています。」と記載があります。この資料によると国内の運用資産の件数と総額は、年金が118件、1821億100万円、その他が2件、11億900万円とあります。これが海外に運用資産を流出させていた伏線と見られます)

■金融庁の業務停止命令を受けて、実態が解明されるまでは、年金資産を引き出すことができないことから、AIJに多額の資金を投じて運用を委託していた企業や団体などの顧客に影響が心配されています。

 報道などで開示された情報によると、AIJの顧客構成は企業年金を所管する厚生労働省が現時点で把握しているAIJと契約した企業年金は全体で84に上ります。このうち厚年基金が74を占め、残りは大企業を中心とする確定給付企業年金です。84の企業年金がAIJと結んだ契約は2011年9月現在で延べ127件です。厚生労働省が2月28日にホームページに掲載した「AIJ投資顧問株式会社に投資残高のある基金について」によると、平成22年度末時点でやはり84件あります。http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000023wp6-att/2r98520000023wqw.pdf

 上記の情報では企業年金基金名は伏せてありますが、主な基金名を公表しているマスコミもあります。そのなかには次のような情報もあります。

【AIJに運用を委託した主な企業年金】(カッコ内は運用資産に占める比率、%)
企業・基金 投資額
 アドバンテスト 17億円(約8)
 安川電機 5億円未満(2未満)
 甲信越印刷工業 一部
 北海道乗用自動車 15億円(8弱) ※北海道内のタクシー会社60社強が加盟
 北海道トラック 20億円程度(約6) ※運送会社約360社が加盟
 福井県機械金属工業 4億円(5)
 新潟県機械金属工業 6億円強(約10) ※新潟県内の中小企業約80社が加盟
 京都府建設業 約15億円(約10)
 長野県機械工業 10億円(約6)
 長野県建設業 約64億円(約34) ※長野県内の約400社が加盟
 福岡県・佐賀県トラック厚生年金基金 40億円(30)
 長野県病院 36億円(20弱)
 京都府建設業 15億円(10強)
 名古屋乗用自動車 10億円(10)
 福井県トラック 3億円(5)
(注)2012年2月24日以降に聞き取りで判明した概算額。
以下運用依頼金額は不明
 長野山梨石油
 甲信越印刷工業
 東北六県トラック(宮城)
 愛鉄連(愛知)
 富山県中小企業団地

■このように、AIJの顧客には、大手企業も数社含まれていますが、大半は、運送業や建設業など地方の中小企業がつくる厚生年金基金となっています。84を超える企業年金では、同一の業種や地域の中小企業が集まる「総合型」の厚生年金基金が約9割を占めています。なかには年金資産の3割以上を投じた基金もあります。

 84の取引先がAIJによる年金消失問題でどれだけの損失を被るのかは現時点では不透明です。また、厚生労働省は厚年基金の運用について、強制権限を持っていませんが、株や債券など伝統的資産以外に投資する「代替投資」の比率が3割を超える基金があるかどうかを調べたうえで、該当する場合には年金資産の運用状況をヒヤリングするなどの対応を検討するとみられます。あいかわらずの、後手後手の対応です。

■AIJはこうした企業年金の受皿として、租税回避地として知られる英領ケイマン諸島に3本の私募投資信託を設定していたことが判明しています。報道によると、AIJは、企業などの顧客から運用を任された年金資金の殆ど全てを、実質的グループ会社の証券会社を通したうえで、租税回避地のイギリス領・ケイマン諸島のファンドに流しており、ケイマンでの実際の運用の指図は、AIJの社長と同じ人物が社長を務める、租税回避地・イギリス領バージン諸島にある会社が行っていました。

 このため、外部からは資金の流れや運用の実態が分かりにくくなっていて(それが意図なのでしょう)、証券取引等監視委員会は、どのような資金運用で損失が膨らんだのか、流用の可能性がなかったのかなどについて、さらに詳細に調査を進めていく方針と見られます。

■1顧客あたりの投資額はほとんどが50億円未満となりますが、このなかで注目されるのは、長野県の約400社が入る長野県建設業厚生年金基金です。

 同基金は2月26日現在、AIJへの年金資産の委託について公表していませんが、同基金の年金資産を管理する金融機関が作成した資料から、平成10年12月末時点で約190億円の運用資産のうち実に約64億円をAIJに投じていたことが判明しています。運用資産に占める比率は約34%に達していました。同基金は現在もAIJへの投資を継続しているようです。

 これに関連して、2月25日の信濃毎日新聞は次のように報じています。

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AIJ受託年金消失、長野県内厚年基金に動揺広がる
 企業年金の運用会社AIJ投資顧問(東京)が運用を受託している約2100億円の大半が消失していることが明らかになった2月24日、県内に事務所を置き、同社に運用を委託した厚生年金基金(厚年基金)に動揺が広がった。長野県内に事務所がある10厚年基金のうち、少なくとも5基金が運用を委託し、年金資産の3割余を託した基金もあることが信濃毎日新聞の取材で判明。担当者たちは今後の基金運営への影響を気に懸けた。
 「(運用の説明が)虚偽だったとすれば、いったい何を信じたらよいのか…」
長野県内の民間病院など52事業所でつくる長野県病院厚年基金(松本市)の担当者はこの日、有望な運用先と信じ加入事業所などから集めた大切な年金資金を託したAIJで資金の「大半が消失している」との知らせに、言葉を失った。
 同社への運用委託は2005年から始め、現在も続く。10年度末段階で年金資産約190億円のうち2割弱に当たる約36億円を委託。運用成績が他の運用機関と比べ「圧倒的に良い」のが魅力だった。担当者は「最終的にどのくらい戻るのかなど、さっぱり分からない。情報も限られ、今は動きようがない」と戸惑う。
 機械メーカーなどでつくる長野県機械工業厚年基金(松本市)は10年度から、運用実績の良さを見て同社への運用委託を始めた。現在、年金資産の6%ほどに当たる約10億円を委託しており、担当者は「消失が事実とすればショックは大きい」と話した。
 12億8700万円の使途不明金を抱え元事務長が業務上横領容疑で指名手配されている長野県建設業厚年基金(長野市)も、同社に資金運用を委託した。同基金の加入事業所向け資料によると、10年度末段階で188億円の年金資産の34%に当たる64億円を委託。同年度は全体の運用成績がマイナス2.94%だったが、同社への委託分だけはプラス7.98%と飛び抜けて高い収益率を達成している。同基金事務局は現在のAIJとの関わりなど取材に対し、「一切答えられない」としている。
 県内の他の厚年基金では、長野山梨石油(長野市)と甲信越印刷工業(同)の2基金が同社への運用委託があると説明。県トラック事業(同)と県自動車整備(同)の2基金は同社への運用委託は無いとした。北信越管工事業(同)、県卸商業団地(同)、県食品(松本市)の3基金はこの日、「担当者が不在で答えられない」などとした。
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■上記にある通り、長野県建設業厚生年金基金では2010年9月に23億8000万円の巨額横領事件が発生してその処理に四苦八苦していますが、さらに巨額の基金消失の可能性が高まったわけで、まさに泣き面にハチといったところです。

 AIJ投資顧問会社の巨額資金流出はグローバル化の美名の下に、ボーダーレスになった金融業界に警告を発する大事件になる予感がします。それにしても、最近、身近にも、国際的にもこうした横領事件が多発するのはやはり異常です。

 今回のAIJをめぐる事件では、金融庁など監督官庁の監理監督の怠慢や、情報公開の不徹底などが、消失金額を増大させた要因として取りざたされています。同じように監理監督不行届きと情報隠匿体質の安中市土地開発公社を舞台に約17年前に発覚した地方自治体では史上空前のタゴ51億円事件の尻拭いをさせられている安中市民としても、最近頻発しているこうした横領事件の動向が大変気になるところです。

【ひらく会情報部】
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